松井誠

松井誠：舞台と人生の華麗なる軌跡

松井誠氏は、1960年福岡県大牟田市生まれの俳優である。劇団誠の座長として、また自ら創設した新舞踊「誠心流」の家元として、芸能界で多大な活躍を見せている。その華麗なる経歴と多彩な才能、そして波瀾万丈な人生を紐解いていこう。

生まれから上京、そして俳優への道

松井氏は、俳優一家、松井千恵子一座の子供として生まれた。なんと、誕生場所は公演中の楽屋という、まさに劇的な幕開けである。0歳で初舞台を踏み、捨て子の役を演じたという逸話は、彼の生涯を象徴するエピソードと言えるだろう。一座の生活は過酷だった。転校を繰り返す日々、友達と遊ぶ時間もなく、給食も満足に食べられない生活に嫌気が差した松井氏は、中学卒業後、夜汽車に乗って家出し、東京へと向かった。

新宿歌舞伎町では、年齢を偽ってホストクラブで働く。幼い頃から舞台に立ち、多くの人々と接してきた経験が活かされ、客あしらいもうまく、すぐに人気ホストとなった。しかし、過酷な仕事とアルコール、そしてストレスは彼の体に深刻な負担をかけ、17歳で胃潰瘍と十二指腸潰瘍の手術を受けることとなる。

転機となったのは、東京の帝劇で観劇した『屋根の上のヴァイオリン弾き』だった。客席との距離が近く、飲食しながら賑やかに観劇する、幼い頃から慣れ親しんだ小さな劇場とは全く異なる、静謐な空間での観劇は、松井氏に大きな衝撃を与えた。この経験が、彼自身の役者像を確立するきっかけとなったのである。

18歳で、劇団員不足に悩む両親を助けるため九州へ戻り、再び舞台に立つ。そして、大舞台への夢を再び追い求めるべく、25歳で「劇団誠」を設立した。

俳優としての活躍と独自の信念

近年は、舞台活動に加え、テレビドラマや映画にも積極的に出演。2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』での北条氏康役は、大きな話題を呼んだ。また、NHK大河ドラマ『炎立つ』では高階経重役を演じたが、公家役柄へのイメージの相違からファンからの苦情が寄せられたというエピソードも有名である。

松井氏の劇団「劇団誠」では、観客からの「おひねり」を廃止している。これは、演技が中断されることや、金銭的な計算に気持ちが囚われて芸がおざなりになることを危惧したためである。かつてホストとして働いていた経験から、金銭と芸のバランスについて、独自の哲学を持っていることがうかがえる。

多彩な活動と私生活

松井氏は、数々の舞台で主演・座長を務め、古典劇から現代劇まで幅広い作品に出演。その圧倒的な存在感と、女形としての美しさから「生きる博多人形」「長谷川一夫丈の再来」と称賛されている。その代表作には、『権八小紫』、『新版 雪之丞変化』、『女形気三郎』など、枚挙に暇がない。帝国劇場や新歌舞伎座など、数々の名だたる劇場の舞台に立ってきた。

テレビドラマでは、『風林火山』、『炎立つ』をはじめ、『御家人斬九郎』、『水戸黄門』、『科捜研の女』など、多くの作品に出演し、確かな演技力で視聴者を魅了してきた。映画にも出演しており、『モノクロームの少女』、『さざ波ラプソディー』などに出演している。

さらに、歌手としても活動し、数々のアルバムやシングルを発表。その幅広い才能は、俳優業にとどまらず、多方面にわたっている。

私生活では、女優の西尾三枝子と結婚し、子供にも恵まれたが、後に離婚。その後、女優の浅丘ルリ子と交際していたことも知られている。

まとめ

松井誠氏は、数々の困難を乗り越え、自らの信念を貫きながら、俳優として、劇団の座長として、そして新舞踊家元として、輝かしいキャリアを築き上げてきた。その波乱万丈の人生と、類まれな才能は、多くの人の心を掴んで離さない。彼の今後の活躍からも目が離せない。

もう一度検索