松原葆斎

松原葆斎は、文政8年（1825年）に信濃国松本藩で藩医の息子として誕生しました。幼少期から学問に励み、藩校崇教館で基礎を築いた後、江戸へ出て野田笛浦や安積艮斎といった著名な学者に師事しました。さらに、藩主の随行として上洛した際には、典薬頭岡本甲斐守から医学を学びました。嘉永3年（1850年）には長崎に赴き、医学の研究に励む傍ら、海外の情勢についても深く探求しました。

嘉永6年（1853年）に帰藩した葆斎は、藩の儒医として活動を開始し、崇教館では文学にも力を注ぎ、学風の刷新に貢献しました。文久元年（1861年）には昌平黌で学び、経義の教授や校舎長助役などの要職を歴任しました。慶応2年（1866年）には長州征伐に従軍し、その後、藩儒官として藩に仕えました。

明治維新後、明治3年（1870年）には大学南校の中助教として教鞭を執りましたが、再び松本藩に戻り、藩政に参与しました。版籍奉還後、明治5年（1872年）には筑摩県学に勤務し、同時に開設された筑摩県師範講習所の漢学科教授にも就任しました。明治7年（1874年）には文部省に出仕しましたが、明治10年（1877年）に帰郷し、北安曇郡池田学校で教鞭を執りました。その後、長野師範学校松本支校や旧制松本中学（現在の長野県松本深志高等学校）でも漢文を教え、後進の育成に尽力しました。明治23年（1890年）に教職を退いた後も、私塾を開き、子弟の教育に情熱を注ぎました。

松原葆斎の蔵書は、その没後、遺族によって松本市図書館に寄贈され、「松原文庫」として現在も貴重な資料として活用されています。彼の学問に対する情熱と教育への貢献は、今日においても高く評価されています。松原葆斎は、幕末から明治という激動の時代において、漢学者、教育者として、その才能と情熱を遺憾なく発揮した人物でした。

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