松山市の歌

松山市の歌

愛媛県松山市が定めた公式の市歌です。この歌の作詞は地元にお住まいだった大野志津根氏、作曲は著名な芥川也寸志氏が手がけました。松山市の歴史の中で、市民の心のよりどころとなる歌の必要性から生まれました。

制定までの道のり

松山市には、過去にも市歌に類する歌が存在していました。1926年（大正15年）に温泉郡の四つの村を編入して市域を広げた際に、お祝いの歌として「大松山市の歌」が作られています。しかし、残念ながらこの歌は作詞者・作曲者が不明であり、戦後には演奏されなくなってしまいました。

こうした経緯から、1970年代の中頃まで、松山市は四国の他の県庁所在地とは異なり、公式な市歌が「未制定」の状態が続いていました。

この状況を変える契機となったのは、1975年（昭和50年）に松山市長に就任した中村時雄氏の考えでした。中村市長は、「市民の心のよりどころとなる愛唱歌はぜひとも必要だ」との思いを持ち、1979年（昭和54年）に迎える市制施行90周年を記念して市歌を制定する方針を明らかにしました。そして、この新しい市歌の歌詞を広く市民から募集する懸賞募集を実施しました。

歌詞の選定と制定意義

市歌の歌詞募集には多くの応募がありました。厳正な審査の結果、当時市内に住んでいらっしゃった主婦、大野志津根氏の応募作品が見事に選ばれ、市歌の歌詞として採用されることになりました。

この「松山市の歌」に込められた制定の意義としては、「人と人との結びつきの大切さ」や、「松山市が持つ豊かな自然、そして長い歴史と独自の文化」を主題とし、「笑顔が広がる松山市」の姿を表現することが挙げられています。市民がこの歌を通じて、郷土への愛着と誇りを深めることが期待されました。

制定記念と記録

制定された「松山市の歌」は、1979年（昭和54年）2月21日に開催された市制90周年記念式典で初めて公式に演奏されました。この記念すべき出来事を記録するため、式典の出席者にはポリドール社に製造を委託したソノシートが配布されました。さらに、後日には同じ内容を収録したシングル盤も制作・発売されました。

当時のソノシートやシングル盤のジャケットには、市歌制定に至る中村市長の動機を語る挨拶文とともに、作詞者の大野志津根氏、作曲者の芥川也寸志氏、そしてこの歌の最初の歌声を担当した歌手の島田祐子氏の写真が掲載されており、制定当時の様子を伝えています。

合併後の継続と現代での活用

「平成の大合併」の時期には、松山市は周辺の自治体と合併を行いました。具体的には、北条市と温泉郡中島町を編入する形で市域が拡大しました。この合併に際して行われた協議会では、旧自治体の歌や新しい市の歌について、特段の取り決めは行われませんでした。

これは、新たな自治体を設ける「新設合併」ではなく、従来の松山市の法人格がそのまま引き継がれる「存続合併」の方式をとったためです。このため、合併後も以前から制定されていた「松山市の歌」が引き続き、広くなった松山市の公式な市歌として歌われ、様々な式典や行事で演奏されています。

さらに、この市歌は現代の市民生活に密着した形で活用されています。2012年（平成24年）4月からは、松山市内を巡回するごみ収集車が、業務中にこの市歌のメロディを流すようになりました。これにより、「松山市の歌」は市民にとってより身近な存在となり、日常の中で耳にする機会が増え、親しまれています。

このように、「松山市の歌」は、過去の市歌の歴史を踏まえつつ、市民の願いと行政の努力によって新たに誕生し、その制定意義を大切にしながら、合併を経た現在も松山市の公式な歌として市民に親しまれ、活用されている、大切な文化の一部と言えるでしょう。

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