松山市営球場

松山市営球場

かつて愛媛県松山市の中心部、美しい城山公園内に存在した松山市営球場は、戦後の復興期に生まれ、半世紀以上にわたり地域の野球文化を支えた歴史ある施設でした。松山市によって管理・運営されていましたが、施設の老朽化に伴い、2003年5月末をもってその歴史に幕を下ろしました。

建設と発展の道のり

球場は1948年7月に開場しました。その建設には、戦後の厳しい時代背景の中、多くの市民が勤労奉仕として参加し、文字通り地域住民の力で作り上げられました。開場当初は簡素な盛り土式のスタンドでしたが、1953年には愛媛県で開催された国民体育大会に合わせて内野スタンドがコンクリート化されました。この国体では軟式野球競技が行われ、昭和天皇の行幸もあったことは特筆されます。

その後も球場は改良が続けられ、1967年の大規模改修では、外野スタンドのコンクリート化が実現し、大型スコアボードやネット裏の上屋（鉄傘）も設置されるなど、近代的な設備を備えるようになりました。

野球の舞台として

完成後は、高校野球や社会人野球といったアマチュア野球の公式戦が数多く開催されたほか、プロ野球の公式戦やオープン戦も行われ、多くの野球ファンに親しまれました。

しかし、1980年代に入ると施設の老朽化が顕著になり、改修の必要性が高まりました。城山公園は国の史跡である松山城を擁する区域であり、文化財保護の観点から大規模な改修や建て替えが容易ではないという難しい課題を抱えていました。市は競輪場など公園内の他施設と合わせた再整備を検討しましたが、現地での継続的な施設維持は困難と判断されました。

こうした状況を受け、松山市は1993年3月、市街地西部に整備が進められていた松山中央公園に新たな総合運動施設を建設する計画を発表しました。この計画に基づき、2000年5月にはプロ野球も開催可能な本格的な野球場「松山中央公園野球場（愛称：坊っちゃんスタジアム）」が完成。続いて2003年6月にはサブ球場である「松山中央公園サブ野球場（愛称：マドンナスタジアム）」も開業しました。これらの新施設の稼働に伴い、松山市営球場はその役割を終え、2003年5月31日に閉鎖され、2004年には施設が全て撤去されました。

球場閉鎖後の2005年7月には、市民に感謝の意を示すとともに思い出を共有するため、「市営球場の思い出の品」として、実際に球場で使用されていた黒土が市民に配布されるというユニークな取り組みも行われました。さらに2011年10月21日には、球場跡地のピッチャープレートとバッターボックスがあった場所に記念モニュメントが設置され、完成式典では地元の高校野球関係者が集まり、甲子園優勝監督による始球式が行われ、かつての熱戦の記憶が呼び覚まされました。

伝説と記憶

松山市営球場はその歴史の中で、数々の名場面やエピソードの舞台となりました。特に語り継がれているのは、通算400勝という不滅の大記録を打ち立てた「カネやん」こと金田正一投手が、1950年8月23日にプロ野球選手としての初登板を果たしたのがこの球場であったという事実です。

また、春季キャンプ地としても利用され、大洋ホエールズ（1959年）、大毎オリオンズ（1961年〜1962年）、中日ドラゴンズ（1965年〜1968年）、日拓ホームフライヤーズ（1974年）といった球団が汗を流しました。

1974年11月12日には、日米野球の第13戦が開催されました。ニューヨーク・メッツを迎えて行われたこの試合には、この年限りで現役を引退した読売ジャイアンツの長嶋茂雄選手も出場し、安打を放つなどファンを沸かせました。メッツの4番には、後にヤンキースの名監督となるジョー・トーリ選手も出場していました。

現役時代のヤクルトスワローズの主砲、池山隆寛選手が毎年1月にここで自主トレーニングを行っていたことも知られています。当初は先輩の広沢克己選手と二人で行っていましたが、やがて若手を引き連れての合同練習となり、その様子は「池山道場」としてメディアでも報じられました。

施設の老朽化が進むにつれて、プロ野球公式戦の開催は減少しましたが、1999年3月13日に行われたオリックス・ブルーウェーブ対中日ドラゴンズのオープン戦では、当時の中日監督だった星野仙一氏が、グラウンドの状態の悪さに激怒し、「こんなボコボコのグラウンドで、選手が怪我をしたらどうするんだ」と強い不快感を示す一幕もあり、球場の末期の状況を象徴する出来事となりました。

野球以外では、人気テレビドラマ「あぶない刑事」の記念すべき初地方ロケとなった第10話「激突」の撮影地としても使用されました。

プロ野球公式戦の記録

松山市営球場では、プロ野球公式戦が合計13試合開催されました。内訳は、1リーグ時代に2試合、セントラル・リーグが9試合、パシフィック・リーグが2試合です。特に1953年9月17日に行われた広島カープ対読売ジャイアンツ戦や、1954年9月7日の広島カープ対中日ドラゴンズ戦では、それぞれ1万人を超える観衆を集めるなど、熱気あふれる試合が繰り広げられました。

施設の構造

最終的な施設の概要は以下の通りです。両翼は90.8メートル、中堅は118.9メートルでした。内野はクレー舗装、外野は天然芝という一般的な構成です。スコアボードはパネル式で、かつての旧広島市民球場をモデルにしたともいわれ、表示部の配置が類似していました。照明設備は設置されませんでした。

収容人員は段階的に増加しました。開場当初は15,000人でしたが、1952年の内野スタンド改修後に20,000人となり、1967年の外野スタンド改修を経て最終的に25,000人収容となりました（内野13,400人、外野11,600人）。スタンドは内外野ともに全てコンクリートの階段状で、個別の座席はありませんでした。内野スタンドのネット裏部分には上屋が架けられており、雨や日差しを避けることができました。

松山市営球場は、その役割を終えましたが、そこで繰り広げられた多くのドラマや、建設に汗を流した市民の記憶とともに、今も松山の野球史に深く刻まれています。

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