松山鏡

松山鏡（まつやまかがみ）

松山鏡は、古典落語の演目の一つであり、そのルーツは仏教経典『百喩経』にまで遡ります。特に第35巻にある「宝篋の鏡の喩」が原話とされており、笑いを交えながら人の心の在り方を描く作品です。主に8代目桂文楽などが演じており、今に至るまで多くの人々に愛されています。

あらすじ

物語の舞台は、越後の松山村です。主人公の正助は、両親を失ってから18年が経ち、その間に墓参りを一度も欠かしたことがありません。彼の行動は、村人たちの注目を集め、その純粋な姿勢が地頭の目に留まります。地頭は正助に、何か欲しいものがないかと尋ねますが、彼は無欲で「当たり前のことをしただけ」とご褒美を全て辞退します。

その姿勢に感銘を受けた地頭は、何か特別なことをしてあげたいと考え、「どんな無理難題でもお応えする」と宣言します。それに対する正助の意外な願いは、故父に一目会いたいというものでした。この願いに地頭は唖然としますが、正助の誠実な気持ちに心を動かされます。

地頭は名主の権右衛門に正助の父親のことを尋ね、彼が45歳で亡くなり、しかも正助に非常に似ていることを知ります。そこで、地頭は解決策を考え、鏡を持ってくるように命じます。正助が鏡を覗き込むと、自分の映った顔を見て「おとっつぁん！？」と誤解し、感激の涙を流します。この松山村では、まだ「鏡」を見たことがないため、正助は映った自分を父親だと思い込んでしまうのです。

その様子を見た地頭は、鏡の箱に詩を添え、「余人に見せるな」と言ってそれを正助に渡します。それ以来、正助は古い葛籠の中に鏡を隠し、妻のお光にもそのことを秘密にして、朝晩それを眺めては父親に挨拶をしていました。

しかし、その様子を不審に思ったお光は、正助が留守の間に葛籠を覗き込みます。すると、自分と鏡の中の女性が映っているのを見てしまい、夫に愛人がいるのではと嫉妬して泣き出します。帰宅した正助に対して詰め寄ると、夫婦間で大喧嘩に発展します。

その騒ぎを聞きつけた近隣の尼さんが仲裁に入ります。両者の言い分を聞いた後、尼さんが鏡を覗いてみると、二人はけんかするのをやめた方が良いと説得します。彼女の言葉に、正助とお光は冷静さを取り戻し、誤解が解けていくのです。

松山鏡は、笑いや人間関係の面白さの中に、親子の愛情や先代への思いを描いた作品です。この物語を通じて、見ることの大切さや、心のつながりを再確認させられることでしょう。

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