松平信安

松平信安：華族の栄光と悲劇の生涯

松平信安は、激動の幕末から明治へと続く時代を生き抜いた、上山藩最後の藩主であり、藤井松平家16代当主です。1864年、上山藩7代藩主・松平信宝の五男として誕生した信安の生涯は、華族としての栄華と、その後の没落、そして家族を巡る悲劇的な出来事に彩られています。

信安が藩主の座を継いだのは、戊辰戦争後のことでした。兄・信庸が奥羽越列藩同盟に参戦したため、新政府から強制隠居処分を受けた信庸に代わり、信安が養子として家督を相続したのです。明治2年、版籍奉還により上山藩知事となり、従五位に叙任されます。しかし、幼少であったため、実務は兄・信庸が行っていたと言われています。

明治4年の廃藩置県により、信安は知藩事職を免官となり東京に移住しました。8歳の時には慶應義塾に入学するなど、勉学にも励んでいます。明治17年には子爵に叙爵され、華族としての地位を確立しました。その後、明治32年には芝大神宮の社司に就任するなど、順風満帆な時期を過ごしたかに見えました。

しかし、信安の平穏な日々は長くは続きませんでした。兄・信庸の実子である信恭の成長に伴い、信安の立場は徐々に不安定なものとなっていったのです。信庸によって管理されていた財産は思うように使えず、生活は苦しく、信恭とその生母からは理不尽な扱いを受けることもありました。当主でありながら屋敷を出て暮らす時期もあったと伝えられています。

苦境の中で、信安は明治23年に隠居を望んだとされています。明治30年には信恭を養子に迎えるも、状況は改善されませんでした。ついに明治36年、信恭の廃嫡を求める訴訟にまで踏み切ります。これは、信恭とその生母が藤井松平家の家政の実権を握り、当主である信安を不当に軽んじていたためでした。

しかし、信安自身の放蕩な生活と散財が祟り、明治41年には正四位と子爵の爵位を返上することを命じられ、藤井松平家、ひいては上山藩主家は華族の地位を失うことになります。

明治41年、信安は正四位と子爵の爵位を返上し、華族の地位を失いました。これは、信安自身の放蕩な生活と散財が原因の一つであったとされています。その後、大正7年、55歳で兄の後を追うように亡くなりました。

信安の死後、彼の妾であるたま、娘たち、そして義子は東京市本郷の小さな家に暮らすことになります。信安の母は長男信英の爵位回復を期待しましたが、信英は父譲りの奔放な性格で大阪に出て行きました。さらに、関東大震災によって一家は離散。たまは喘息で亡くなり、娘たちは元華族という肩書を頼りにしながらも、没落の一途を辿ることになります。

悲劇は続きます。三女の義子は市電から転落し、26歳で亡くなりました。この事故をきっかけに、長らく音信不通だった家族が再会することになります。しかし、この再会も、かつての華族の輝きを取り戻すことには繋がりませんでした。『華族大系』では、信安の子女たちの名前は削除され、次男の信元が家督を継いだことになっています。

松平信安の生涯は、華族としての栄光と、その後の没落、そして家族の悲劇が複雑に絡み合った、波乱に満ちたものでした。激動の時代を生き抜いた彼の物語は、現代に生きる私たちに多くのことを伝え続けています。彼の栄枯盛衰は、時代が生んだ一つのドラマとして、今も人々の記憶に刻まれています。

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