松平宣維

松平宣維：松江藩を支えた改革者

松平宣維（まつだいら のぶずみ）は、江戸時代中期に出雲国松江藩を治めた第5代藩主です。雲州松平家の一員として、その治世は決して平坦ではありませんでした。度重なる天災による財政難に直面し、藩主としての手腕が試されることになります。

生涯と藩政改革

元禄11年（1698年）に生まれた宣維は、宝永2年（1705年）に父の跡を継いで藩主となります。藩主就任後、宣維は直ちに藩政改革に取り組みました。主なものとして、以下の施策が挙げられます。

税制改革: 定免制度を導入し、安定的な税収確保を目指しました。
特産品開発: ハゼ、ウルシ、クワ、コウゾ、茶、オタネニンジンの栽培を奨励し、新たな収入源を創出しました。ロウや蝋燭の製造も積極的に行われました。
沿岸警備の強化: 異国船の出没に対応するため、沿岸警備を強化しました。
たたら製鉄の統制: たたら製鉄を藩の管理下に置き、「蹈鞴株」という同業組織を作らせ、先納銀を徴収することで財源を確保しました。
藩札の発行: 一時的な財政難をしのぐために藩札を発行しましたが、後に札騒動を引き起こす原因となりました。

これらの政策は、藩財政の改善に一定の効果をもたらしましたが、同時に新たな問題も引き起こしました。

将軍家との縁組

宣維の治世において特筆すべきは、将軍徳川吉宗の意向による伏見宮家からの縁組です。最初の正室を亡くした後、宣維は吉宗の仲介で邦永親王の王女・岩宮（光子）を継室に迎えることになります。この縁組は、松江藩にとっては予想外の出来事でした。皇族との婚姻は経済的負担を伴う可能性がありましたが、将軍家の意向を無視することはできませんでした。

結果的に、この縁組は松江藩にとって大きな意義を持つことになります。岩宮が嫡男である宗衍（むねのぶ）を生んだことに加え、岩宮が将軍家の家族として遇されたことで、松江藩は徳川将軍家との関係を強化することができました。宣維の急死後、幼い宗衍が藩主を継ぐことができたのも、この縁組による将軍家の後ろ盾があったからに他なりません。

異例な婚姻の背景

雲州松平家の正室は、代々越前松平家の一門や久松松平家から迎えられていました。しかし、宣維は外様大名である佐竹家や皇室の伏見宮家からも正室を迎えており、このことは当時の大名家においては異例なことでした。特に、伏見宮家からの縁組は、松江藩の家格からすると異例中の異例であり、将軍吉宗の強い意向が背景にあったと考えられます。

死去と後継

享保16年（1731年）、宣維は34歳の若さでこの世を去りました。跡を継いだのは、岩宮との間に生まれた長男の宗衍でした。宣維の時代に蒔かれた種は、宗衍の時代に花開き、松江藩は安定した治世を迎えることになります。

まとめ

松平宣維は、財政難という困難な状況の中で、藩政改革を推進し、松江藩の立て直しに尽力しました。また、将軍家との縁組を通じて藩の地位を安定させるなど、政治家としての手腕も発揮しました。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた地方大名の姿を今に伝えています。

参考文献

石田俊「松平宣維室天岳院の立場と役割」『松江市史研究』九号（2018年）/所収:石田『近世公武の奥向構造』（吉川弘文館、2021年） ISBN 978-4-642-04344-1

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