オタネニンジン

オタネニンジン（御種人蔘）とは



オタネニンジン（御種人蔘）は、ウコギ科の多年草で、その原産地は中国の遼東半島から朝鮮半島にかけての地域とされています。中国東北部やロシア沿海州にも自生しており、古くから薬用や食用として利用されてきました。日本では、チョウセンニンジン（朝鮮人蔘）、コウライニンジン（高麗人蔘）とも呼ばれ、単に人蔘（にんじん）とも称されます。ただし、野菜として一般的なニンジン（人参）はセリ科の植物であり、オタネニンジンの近縁種ではありません。

名称の由来



オタネニンジンの名称は、その根が人の形に似ていることに由来すると言われています。古くは「人蔘」と呼ばれ、中国や朝鮮半島、日本で薬草として重宝されてきました。日本では10世紀頃の文献に「加乃仁介 久佐（カノニケ草）」という和名で記録されています。朝鮮語では「인삼（インサム）」が一般的で、貴重な野生種は「山蔘（サンサム）」と呼ばれます。また、「シム」という固有語も存在しますが、現代では「山蔘採取者」を意味する「シンマニ」や感嘆詞の「シンバッタ」などにその名残をとどめるのみです。中国東北部では「棒槌（バンチュイ）」とも呼ばれています。

「御種」の由来



「御種人蔘」の「御種」には諸説あります。一つは、江戸時代に徳川家光の時代に関東の日光で栽培に成功し、幕府が各地の藩に種子を分け与えたためという説。もう一つは、徳川吉宗が対馬藩に命じて朝鮮半島から種子と苗を入手させ、栽培を奨励したことに由来するという説です。栽培が成功する以前は、オタネニンジンは朝鮮半島からの輸入に頼っていました。

人蔘とニンジン



元来「人蔘」はオタネニンジンのことを指していましたが、江戸時代以降、セリ科の根菜である「胡蘿蔔（こらふ）」、現在のニンジンが日本に伝わると、根の部分を使う類似性から「せりにんじん」などと呼ばれるようになりました。次第に「せりにんじん」が普及し、単に「にんじん」と呼ばれることが多くなりました。一方、オタネニンジンは医学の西洋化とともに使われなくなり、区別のため「朝鮮人蔘」と呼ばれるようになった経緯があります。第二次世界大戦後、日本では輸入元の韓国で嫌がられる「朝鮮」の語を避け、「薬用人蔘」と呼ぶようになりましたが、薬事法に抵触するため「高麗人蔘」に切り替えられました。

特徴



オタネニンジンの地上部の草丈は50cmから60cm程度です。茎は1本直立し、先端に5枚の掌状複葉を輪生します。葉は楕円形または卵形で鋸歯があり、先端が尖っています。花は淡緑色で、散形花序を形成します。

産地、栽培、加工



オタネニンジンの栽培は難しく、18世紀初頭に朝鮮で初めて成功したとされますが、日本ではそれ以前、徳川家光または徳川吉宗の時代に栽培に成功していたと言われています。主な産地は韓国の錦山郡や江華郡、北朝鮮の開城特別市、中国の長白山麓です。日本では長野県、福島県、島根県などで栽培されていましたが、近年では栽培農家の高齢化などにより減少傾向にあります。栽培には2年から6年を要し、5年以上のものが良品とされます。日本では、直射日光や雨を避けて6年かけて栽培されます。

収穫された根は、皮を剥いて天日乾燥させたものが白参、皮を剥かずに湯通しして乾燥させたものが紅参と呼ばれます。日本では、根を蒸したものを紅参としています。また、砂糖水に漬けて乾燥させた糖参もあります。栽培物よりも天然物の方が珍重され、高値で取引されることがあります。

また、高麗人参の実は4年に一度しか実らないため、希少性が高く、食用や化粧品に加工されています。ジンセンベリーとも呼ばれ、高麗人参よりもジンセノサイドを多く含む場合があります。

利用法



生薬



オタネニンジンは、古くから生薬「人参」として利用されてきました。根にはジンセノサイドと呼ばれる化合物群が含まれており、民間療法では、1日量1〜3グラムを煎じて服用したり、人参酒として利用したりします。人参酒は、紅参や白参を焼酎に漬けて作ります。日本では、薬事法により高麗人参を漬けた酒は薬味酒として販売されています。

漢方方剤



漢方薬では、他の生薬と組み合わせて使用されます。白参と紅参は、同じオタネニンジンを原料としますが、処理方法が異なるため、異なる生薬として扱われます。人参湯、補中益気湯、六君子湯など、人参を含む漢方方剤は多数ありますが、虚証向けのものが多く、オタネニンジンのみを用いる独参湯も知られています。

食材



日本では、朝鮮料理の材料として使われるほか、生のまま酢味噌和えや天ぷらにして食されます。韓国では、煎じたものを人参茶として飲んだり、サムゲタンなどの料理に使われたりします。また、水参を蜂蜜漬けにして食べることもあります。人蔘入りの栄養ドリンクやガムも市販されています。北朝鮮の開城人参酒は主要な輸出品の一つです。

成分に関する研究



オタネニンジン植物個体について



オタネニンジンは、胃腸虚弱、食欲不振、嘔吐、下痢、病後の回復期、疲労回復、滋養強壮に効果があるとされています。

各成分について



オタネニンジンの根には、ジンセノサイドというサポニン群が少なくとも38種類含まれています。これらの成分は、腸内細菌で代謝され、コンパウンドKとして吸収されますが、腸内細菌叢の状態によっては代謝がスムーズに行われないこともあります。

西洋医学による見解



西洋医学に基づく質の高い試験は少なく、健康への効果を裏付けるエビデンスは限られています。

日本の厚生労働省による見解



厚生労働省の見解では、朝鮮人参に関する多くの試験は質が高いとは言えず、健康促進効果に対する理解は限定的であるとされています。短期間の経口摂取は安全と考えられますが、長期安全性には疑問が残ります。副作用としては、不眠症、月経異常、乳房痛、心拍数増加、高低血圧、頭痛、食欲不振、消化不良などが報告されています。また、血糖値に影響を与える可能性や、他の薬剤との相互作用も指摘されています。妊娠中の摂取は、動物実験で先天異常を引き起こす可能性が示唆されているため、避けるべきです。

他の生薬との関係



アメリカニンジン、トチバニンジン、サンシチニンジン、エゾウコギは、ウコギ科の薬用植物で、一部はジンセンとして販売されていますが、本来のジンセンはオタネニンジンから抽出されたエキスを指します。クララはマメ科の植物で、形状が似ているため「苦参」として用いられますが、全く異なる植物です。ナマコは、中国語で「海の人参」を意味する「海参」と呼ばれます。

慣用句



「人参で行水」は、医薬の限りを尽くして治療をすることを意味する慣用句です。

関連項目




外部リンク



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