松本市歌

松本市歌（まつもとしか）

松本市歌は、長野県松本市のために制定された自治体歌です。国文学者の高野辰之が作詞を手がけ、作曲は音楽家の信時潔が担当しました。

制定の背景と経緯

この市歌は、日本が皇紀二千六百年という記念の年を迎えた1940年（昭和15年）に制定されました。この時期には、全国各地で自治体の歌が数多く生まれています。松本市は、歌詞の一般公募を行うのではなく、当時著名な国文学者であった高野辰之氏と、東京音楽学校（現在の東京芸術大学音楽学部）の講師を務めていた信時潔氏にそれぞれ制作を依頼しました。こうして完成した市歌は、同年7月31日付の『松本市公報』第43号によって正式に制定が告示されています。

戦後の状況と「まぼろしの市歌」

しかし、第二次世界大戦の終結後、この市歌は次第に演奏される機会を失い、市民の間から忘れ去られていきました。その主な原因は、歌詞の3番に含まれる内容にありました。Specifically, 同番で触れられている歩兵第50連隊の兵営や護国神社の存在が、戦後の日本国憲法が定める平和主義や政教分離の原則と相容れないと見なされたためです。こうした背景から、松本市歌は「まぼろしの市歌」と呼ばれるようになりました。ただし、同じ3番の歌詞には「学都」という言葉も含まれており、この表現は現在でも松本市を表す雅称として広く親しまれています。

戦後、市歌が十分に機能しない状況を受け、新たな動きもありました。1952年（昭和27年）には、信越放送の開局を記念して信濃毎日新聞社が新しい「松本市市歌」を選定し、市に寄贈しています（作詞：西久保鶴雄、補作：西條八十、作曲：堀内敬三）。しかし、この楽曲に関する公式な記録は、『松本市史』をはじめとする市の公文書には一切見当たりません。さらに、1997年（平成9年）には市制90周年を記念した「松本のうたコンクール」が開催され、最優秀作品に選ばれた市民愛唱歌「この街を忘れない」（作詞・作曲：黒岩玲子）が誕生しました。現在では、対外的な場面で松本市を紹介する際に、演奏実態がなくなってしまった1940年制定の市歌に代わって、この愛唱歌が用いられることが多くなっています。

復活演奏の試み

長らく演奏されることのなかったこの市歌ですが、近年になって再び光が当てられる機会がありました。2022年（令和4年）には、信州大学人文学部の学生有志が、戦後に市歌の演奏が途絶えた経緯について調査を開始しました。彼らは調査の中で、作曲者である信時潔の直筆楽譜が東京芸術大学に所蔵されていることを発見し、その楽譜をもとに伴奏部分を忠実に再現しました。そして、この再現された楽譜を用いて、忘れられていた松本市歌の復活演奏を実現させたのです。

著作権について

「松本市歌」の歌詞および旋律は、著作権の保護期間が満了しています。したがって、これらの楽曲はパブリックドメインとなっており、誰でも自由に利用することが可能です。

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