松本幸四郎 (初代)

初代松本幸四郎は、江戸時代中期を彩った歌舞伎役者として知られています。延宝2年（1674年）、現在の千葉県香取市小見川にあたる地域で島田家に生まれました。幼少期は佐原の小間物屋「高麗屋」に奉公に出され、そこで厳しい修業の日々を送ったと伝えられています。

その後、彼は江戸に出て、久松多四郎という名のもとで歌舞伎の世界に入りました。当初は「久松小四郎」の名で、女性役を専門とする女形として活躍しました。優美な所作と繊細な表現力で、たちまち観客を魅了したと言われています。

しかし、初代松本幸四郎の芸の幅は女形だけにとどまりませんでした。彼は役者としての更なる高みを目指し、芸名と屋号、そして演じる役柄にも変化をもたらします。

「松は霜雪に操を変えず、本は本心の本の字」という言葉を家訓として、彼は「松本」という姓に改め、それまでとは異なる、男性的で力強い役柄である立役へと転向しました。この転身は、彼の役者としての可能性を大きく広げ、新たな境地を開拓する契機となりました。

そして、享保元年（1716年）、徳川吉宗が征夷大将軍となると、その子息である小次郎（後の徳川宗武）と親交を持ったと伝えられています。この縁により、彼は「松本幸四郎」という名前に改名しました。この改名は、彼の名声をさらに高め、江戸の演劇界における地位を確固たるものにしたと考えられています。

初代松本幸四郎の芸歴は、常に挑戦と変革の連続でした。女形から立役への転身、そして芸名や屋号の変更など、彼は自身の芸を磨き上げ、常に進化を追求し続けました。その努力の結晶が、江戸時代中期を代表する歌舞伎役者としての彼の地位を築き上げたと言えるでしょう。

初代松本幸四郎は享保15年（1730年）に亡くなりましたが、その功績は後世に受け継がれています。彼の墓は、千葉県香取市の善光寺と東京都文京区の栄松院にあります。

さらに重要なのは、彼が養子に迎えた二代目松本幸四郎が、後の四代目市川團十郎として歌舞伎界に大きな足跡を残した点です。初代松本幸四郎の血筋、そして芸の精神は、彼の養子を通して、次の世代へと受け継がれていきました。初代松本幸四郎は、単なる一人の役者ではなく、歌舞伎の歴史に大きな影響を与えた重要な人物だったと言えるでしょう。彼の活躍は、江戸時代の歌舞伎界の盛況を象徴する出来事の一つであり、現在にいたるまで多くの歌舞伎ファンに語り継がれています。

もう一度検索