松浦宮物語

『松浦宮物語』は、鎌倉時代初期に成立した物語です。作者は藤原定家である可能性が指摘されています。舞台は肥前国松浦地方で、鏡山の伝説や松浦佐用姫などの要素が取り入れられています。

主人公は、橘冬明と明日香皇女の間に生まれた氏忠。容姿端麗、文武両道で、16歳にして式部少輔、右少弁、中務少将を兼任するほどの人物です。しかし、彼は幼なじみの神南備皇女に密かに恋心を抱いていました。菊の宴の夜に告白するも拒絶され、失意の中、遣唐副使として唐へ渡ることになります。

唐では、皇帝の寵愛を受けますが、故郷を恋しく思います。ある夜、老人の奏でる琴の音に惹かれ、琴を学ぶことに。華陽公主から琴の秘曲を授かりますが、彼女の美しさに心を奪われます。二人の恋は禁じられたものでしたが、逢瀬を重ねます。しかし、華陽公主は氏忠との別れに際し、水晶の玉を託し、再会を予言して命を落とします。

その後、唐の国は乱れ、氏忠は太子の鄧太后を守り、燕王の軍勢と戦います。太后の助けと神の力により、宇文会を討ち破り、乱を鎮めます。乱後、太后への恋心を抱く氏忠は、ある夜、太后に似た女性と出会い、不思議な逢瀬を重ねます。実はその女性は太后自身であり、氏忠と太后は天界から阿修羅を懲らしめるために遣わされた存在だったのです。太后は氏忠に鏡を託し、別れを告げます。

帰国後、氏忠は母と再会し、参議右大弁中衛中将となります。初瀬寺で華陽公主との再会を果たし、結婚。しかし、太后から贈られた鏡に映る太后の姿と香りに、華陽公主は嫉妬します。氏忠は二人の女性の間で思い悩むのでした。

『松浦宮物語』は、恋、冒険、戦乱、そして仏教的な要素が絡み合った物語です。未解明な点も多く残されていますが、『うつほ物語』や『浜松中納言物語』との類似性も指摘されています。主人公の恋する三人の女性、神南備皇女・華陽公主・母后、とくに華陽公主のモデルについては、定家と親交のあった式子内親王であるという説があります。

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