松田正平

松田正平：瀬戸内海の光と影を捉えた洋画家

松田正平（1913年 - 2004年）は、日本の洋画壇に独自の足跡を残した画家である。山口県宇部市で生まれ育ち、幼少期には養子として松田家に迎え入れられた。旧制宇部中学卒業後、上京して川端画学校を経て、1932年には東京美術学校西洋画科に入学。名高い藤島武二に師事し、同郷の香月泰男と同時代に学んだ。

1937年には渡欧し、パリのアカデミー・コラロッシュでデッサンを研鑽。1939年に帰国後、1940年には国画会展に出品するも落選を経験する。同年、宇部市で滞欧作展を開催し、画家としての歩みを確実に歩み始めた。その後、山口師範学校（現山口大学教育学部）で美術教師を務めたものの、1年で退職し上京、1943年には国画会の会友に推挙される。しかし、戦争の激化により家族とともに宇部に戻り、炭鉱で働くなど、厳しい時代を経験した。

戦後、山口県光市に移り住み、高校の非常勤講師をしながら、故郷の瀬戸内海の風景を精力的に描き続けた。1951年には国画会会員となり、フォルム画廊で初個展を開催。以後、ほぼ毎年個展を開き、画家としての地位を確立していく。1952年には上京、世田谷区用賀に居を構えた。この頃から、福田恆存や吉田健一らの著作の装丁や題字なども手がけるなど、多方面で才能を発揮するようになった。

1955年から1969年にかけては、パリ時代の同居人であった前田陽一の縁で、NHKフランス語講座（ラジオ）のテキスト表紙絵を制作。一方、国画会を中心に作品を発表し続け、1963年には千葉県市原市に移り住み、米蔵を改装したアトリエを構えた。

1983年には画集出版を記念した回顧展を開催し、その画業は高い評価を受ける。翌1984年には、その功績が認められ第16回日本芸術大賞を受賞した。1995年には故郷の宇部市に戻り、創作活動を続けた。美術評論家として知られる洲之内徹が、エッセイシリーズ『気まぐれ美術館』で松田の作品を繰り返し取り上げたことは、彼の画業を広く世に知らしめるきっかけとなった。

晩年は腎不全のため療養生活を送るも、2004年に宇部市内の病院で逝去した。2013年には生誕100年を記念して、山口県立美術館と神奈川県立近代美術館で回顧展が開催され、改めてその功績が再評価された。

松田正平は、油彩画の自由な表現と、瀬戸内海を代表とする風景画において、新鮮な世界を切り開いた画家として、日本の美術史にその名を刻んだ。彼の作品からは、故郷への深い愛情と、自然への鋭い洞察が感じられ、見る者の心を深く揺さぶる力を持っている。数々の受賞歴からも彼の芸術的才能の高さがうかがえる。彼の作品は、現在も多くの鑑賞者を引きつけ、日本の洋画史における重要な位置を占めている。

主な受賞歴

1940年：国画会奨学賞
1984年：第16回日本芸術大賞（新潮社主催）
1986年：宇部市芸術文化特別功労賞
1993年：山口県選奨（芸術文化功労）
2000年：地域文化功労者文部大臣表彰
2002年：文化庁長官表彰

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