松葉色

松葉色（まつばいろ）とは

松葉色とは、その名の通り、マツの葉の色を模した、ややくすんだ緑色のことです。別名、松の葉色とも呼ばれます。この色は、鮮やかな緑色とは異なり、落ち着いた印象を与えるのが特徴です。

歴史的背景

松葉色は、日本の伝統色として、古くから人々に親しまれてきました。平安時代の女流作家、清少納言が著した『枕草子』には、狩衣の色目を列挙した一節があります。その中で「松の葉色」が挙げられており、当時の人々がこの色をどのように捉えていたのかを知る上で貴重な資料となっています。

「狩衣は 香染の薄き。白き。ふくさ。赤色。松の葉色。青葉。桜。柳。また青き。藤。男はなにの色の衣をも着たれ。」

この記述から、松葉色が当時から存在し、衣服の色として用いられていたことが伺えます。

また、『栄花物語』や『増鏡』には、「松重」という衣装の色目として「松の葉がさね」や「松がさね」が登場します。これらは、表の色と裏の色を組み合わせた重ねの色目であり、松葉色を含む緑系の色と赤紫系の色を組み合わせたものであったと考えられています。具体的には、表が緑で裏が紫、あるいは表が萌黄色で裏が紫といった組み合わせが見られます。

松重の色目

松重の色目は、四季を通じて着用できる色目として、当時重宝されていました。重ねの色目には、表と裏の色を組み合わせることで、より豊かな色彩表現を生み出す工夫が凝らされています。松重の場合、緑系と赤紫系の組み合わせが一般的で、これは『雁衣鈔』や『薄様色目』といった文献にも記述が残されています。

『雁衣鈔』: 表が緑、裏が紫
『薄様色目』: 表が萌黄色、裏が紫

これらの組み合わせから、松葉色が単なる緑色ではなく、紫との組み合わせによって、より深みのある色として認識されていたことがわかります。

色彩の表現

松葉色は、自然の色を写し取った色の一つです。日本の伝統色には、自然の風景や植物の色を模したものが数多く存在しますが、松葉色もその一つとして、日本の美意識を表現する重要な要素となっています。

色彩は、単に見た目の美しさだけでなく、その背景にある文化や歴史、そして人々の感性を映し出す鏡のような役割も果たしています。松葉色も例外ではなく、そのくすんだ緑色の中には、自然への畏敬の念や、繊細な美意識が込められていると言えるでしょう。

現代における松葉色

現代においても、松葉色は様々な形で私たちの生活に息づいています。衣服やインテリア、デザインなど、様々な分野でその落ち着いた色合いが活用されています。伝統色としての価値を守りつつ、現代の感覚にも合うように、その表現の幅を広げています。

参考資料

福田邦夫『すぐわかる　日本の伝統色』東京美術 ISBN 4-8087-0784-5
吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社 ISBN 4-87940-549-3
長崎盛輝『かさねの色目　平安の配彩美』青幻社ISBN 4-916094-54-9

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* 千歳緑

松葉色は、日本の自然や文化を色濃く映し出す伝統色の一つであり、その深い歴史と美しい色彩は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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