板屋

板屋（いたや）

福岡県福岡市早良区に属する大字（おおあざ）である。福岡市の最南端に位置し、脊振山地の高地に広がる山村集落として知られる。標高はおよそ500メートルから1000メートルに及び、全体的に険しい山が多く、平地が少ない地形が特徴となっている。

地理と自然

板屋は早良区の南端に位置し、脊振山の山頂付近にその領域が含まれる。北は早良区小笠木、北東から南東にかけては那珂川市の南面里、成竹、五ヶ山に隣接する。南は佐賀県神埼郡吉野ヶ里町の松隈、西は佐賀県神埼市脊振町の服巻、北西は早良区椎原と接している。

この地域は標高が高いため気候は冷涼であり、特に冬期の積雪は多い。福岡市中心部では雪が見られないような場合でも積雪することが多く、例年30センチメートルから50センチメートル程度の積雪が見られる。2011年には80センチメートル近くの記録的な積雪を観測したこともある。全体として、温暖な福岡市中心部と比較して寒冷な気候特性を持つ。

地域内には那珂川の源流部があり、脊振山がそびえ立つ。周辺は脊振雷山県立自然公園にも近接しており、豊かな自然環境が保たれている。

人口と集落の現状

2012年1月末時点での住民基本台帳に基づく人口は76人となっている。しかし、これは統計上の数値であり、実際の居住者はさらに少ない。2007年10月の調査では19世帯31人が生活しており、そのうち8割以上が65歳以上の高齢者であった。このことから、板屋は実質的に「限界集落」の状態にあるとされる。人口の減少は1970年代後半から顕著となり、後述する脊振ダムの建設がその要因の一つとも考えられている。集落の現状はメディアでも取り上げられ、2009年にはTVQ九州放送のドキュメンタリー番組で「140万都市の限界集落」として紹介された。

生活基盤と交通

行政上は福岡市早良区に属するものの、板屋は地理的な条件により福岡市中心部からのアクセスが非常に困難である。特に、北西方向の早良区椎原へと通じる福岡県道136号線上の板屋峠は、急カーブや急勾配が連続する難所となっており、都市部からの自動車でのアクセスを阻害している。そのため、住民の日常生活における買い物や医療などの生活インフラは、隣接する那珂川市への依存度が高い状況にある。

公共交通機関も極めて限定されている。現在、利用できるのは福岡市から飯倉タクシーに委託された予約制の乗合タクシー「板屋脇山線」のみである。この乗合タクシーは、運行日によってルートが異なり、月曜日から水曜日、金曜日、土曜日は早良区側の脇山小学校前を、木曜日と日曜日は那珂川市側の中ノ島公園を起点とし、いずれも板屋ふるさと館前まで運行されるが、全て事前予約制であり、予約がない場合は運行されない。

過去には、2000年7月から2008年3月まで、西日本鉄道（西鉄バス）が那珂川町（当時）の佐賀橋と板屋の間でバス路線を運行していたが、利用者の減少に伴い廃止された。現在、最も近い西鉄バスの停留所である椎原バス停から集落中心部まで南へ約7キロメートル、福岡市中心部への直通バスが利用できる脇山小学校前バス停からは南へ約11キロメートルも離れており、公共交通網からはほぼ孤立した状態にある。

主要な道路としては、福岡県道136号入部中原停車場線が地区を南北に縦断しており、早良区の脇山地区方面と那珂川市の五ヶ山ダム方面を結んでいる。また、集落の中心部からは、脊振山山頂にある航空自衛隊背振山分屯基地へ通じる防衛省専用道路が分岐しており、大型車を除く一般車両の通行も認められている。

教育

板屋地区内には現在、小中学校は存在しない。全域が福岡市立脇山小学校の校区に指定されているが、この地区から脇山小学校へ通学する児童・生徒はいない状況が続いている。かつては脇山小学校の板屋分校が設置されていた時代もあり、1960年代には30人程度の児童が学んでいたが、児童数の減少に伴い1979年に閉校となった。

主な施設

板屋およびその周辺地域には、以下のような施設が存在する。

脊振ダム、福岡市水道局脊振ダム操作所、板屋水位観測局、山添砂防ダム：治水・利水や水源管理に関する施設。
福岡市立背振少年自然の家：宿泊施設やキャンプ場を備え、自然体験活動などに利用される教育・研修施設。
背振牧場
三光寺、山神社：地域の信仰の場。
* 航空自衛隊背振山分屯基地：脊振山山頂に位置し、その敷地の一部が板屋の領域に含まれる。

特徴

板屋は、日本の主要政令指定都市の一つである福岡市に属しながらも、脊振山地の高地という厳しい地理的条件と交通の不便さにより、都市部とは隔絶された独自の環境を持つ山村集落である。人口減少と高齢化が進行し、限界集落としての課題に直面している点が、この地域の顕著な特徴と言える。

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