脊振山

脊振山

脊振山（せふりさん）は、佐賀県神埼市と福岡県福岡市早良区の境界に位置する標高1,054.6mの山で、脊振山系の最高峰として知られています。日本三百名山の一つにも数えられ、山頂には航空自衛隊とアメリカ軍のレーダーサイト（脊振山分屯基地）が設置されています。この山は、かつて「廣瀧山」と呼ばれており、江戸時代後期までその名で親しまれていました。廣瀧山の麓には、武家の廣瀧家を中心とした集落が形成され、彼らは織田家と同じ五つ木瓜の家紋を用いていました。

歴史と信仰

脊振山一帯は、古くから山岳密教の修験場として知られ、多くの修行僧が暮らしていました。そのため、現在もその痕跡が数多く残っています。「脊振山」という名称は、かつては山系全体の坊の総称として使われており、現在の山頂は「上宮獄」と呼ばれていました。隣接する千石山の中腹にある霊仙寺跡は、当時脊振山中宮にあった中心的な坊の一つでした。天暦2年（948年）には、性空上人がこの地で法華経を暗誦したと伝えられています。

山頂には脊振神社の上宮があり、弁財天がご神体として祀られています。五穀豊穣の神として、肥前や筑前の農民からの信仰を集め、現在も多くの参拝者が訪れます。また、霊仙寺跡付近は、栄西が中国から持ち帰ったお茶の種を日本で初めて栽培した地とされ、日本茶栽培の発祥地としても知られています。霊仙寺跡の西側には、サザンカの自生北限地があり、群生している様子を見ることができます。

1693年（元禄6年）には、山頂付近で筑前と肥前の国境争いが起こり、幕府の裁定が下されました。

景観

天候の良い日には、有明海の先に雲仙岳を望むことができ、さらに遠くには由布岳や九重連山、阿蘇山などの山々を眺めることができます。東側が開けているため、元旦にはご来光を拝むイベントも開催されています。

気候

脊振山一帯は、九州北部の平野部と比較して冬季の積雪が多く、寒波の影響で50cm以上の積雪を観測することもあります。特に2011年（平成23年）1月には、場所によっては1m以上の積雪を記録し、北部九州有数の多雪地帯となっています。例年、11月下旬に初雪が降り、平年の初冠雪日は12月8日です。

自然

標高800m付近以上の山の上部には、ブナやアカガシの天然林が広がっています。その他、カエデ、ミズナラ、ツツジなどが多く見られ、下草にはミヤコザサが発達しています。山体は白亜紀中期の花崗岩で構成されています。

山頂付近の施設

敗戦後、朝鮮半島を臨む立地から米軍のレーダー施設が建設され、その後、航空自衛隊に移管され、脊振山分屯基地として現在に至ります。また、警察庁や新聞社の通信施設も設置されています。福岡管区気象台のレーダー気象観測所は、山頂から西に約1km離れた標高約986mの場所にあります。初代の観測所は1940年頃に山頂付近に建設されましたが、第二次世界大戦後に廃止され、1955年に現在の場所に再建されました。1947年から1950年にかけて、気象学者の藤田哲也が脊振山で気象観測を行いました。

航空機事故

脊振山は、福岡平野と筑後平野の間に位置し、濃霧が発生しやすい地理的条件から、航空機の難所として知られています。過去には、1936年、1938年、1987年に航空機事故が発生しています。1936年の事故では、フランスの飛行士アンドレ・ジャピーが遭難しましたが、旧脊振村民によって救出されました。この出来事は、フランスと日本の友好を示す美談として語り継がれています。1938年の事故では、南洋庁航空部の飛行艇が墜落し、多数の死者が出ました。1987年には、海上保安庁の航空機が墜落し、4名が殉職しました。また、福岡大空襲の際には、B-29爆撃機が脊振山の山陰を博多湾の海岸線と誤認し、山裾の村々を爆撃したという事例もあります。

登山

山頂直下には駐車場が整備されており、自動販売機やトイレが設置されています。駐車場までの道は自衛隊基地のアクセス道となっているため、夜間の一般車の通行は禁止されています。駐車場から山頂までは、徒歩で約300mです。山頂付近は九州自然歩道が縦走しており、ハイキングを楽しむ人も多く訪れます。

車道は、福岡県側からは防衛省専用道路、佐賀県側からは佐賀県道305号が山頂付近まで通じています。防衛省専用道路は、工事期間以外であれば一般車両の通行も可能ですが、大型車の通行は禁止されています。佐賀県道305号は、走り屋対策のため、一部車両に対して夜間通行止め規制が敷かれていますが、年末年始は規制が解除されます。冬季は積雪や路面凍結に注意が必要です。

関連情報

脊振山地
蛤岳

外部リンク

ジャピー遭難の当時の新聞記事／神戸大学附属図書館所蔵
世界に誇れるエピソード 負傷したフランス人飛行士に懸命の救助活動／個人サイト

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