板橋ダム

板橋ダム

板橋ダムは、中国の河南省に位置する大規模なダムです。特に、1975年に発生した未曽有の決壊事故によって、その名が知られています。

建設の経緯

ダム建設の背景には、1940年代後半から連続して発生した中国国内での深刻な水害があります。特に、1949年と1950年に続いた淮河（わいが）の氾濫は、広範囲にわたり甚大な被害をもたらし、効果的な治水対策が喫緊の課題となりました。

これを受け、中国政府は1950年10月、大規模な治水計画を決定しました。この計画の一環として、まず1951年4月に淮河流域の支流である洪河に石漫灘（せきまんたん）ダムが建設に着手され、同年7月には早くも完成しました。続いて、同じく淮河の支流である汝河（じじょが）には板橋ダムが建設され、1952年6月に竣工しました。これらのダムは、下流域の洪水調節と灌漑用水の供給を主な目的としていました。

1975年の決壊事故

板橋ダムは、完成から約20年後の1975年8月、壊滅的な事態に見舞われました。この時期、中国大陸に上陸した台風3号（蓮娜台風）は、河南省の駐馬店（ちゅうばてん）市を中心とする地域に記録的な集中豪雨をもたらしました。

わずか数日の間に降り続いた雨量はダムの設計基準をはるかに超え、貯水位は異常な速さで上昇しました。そして1975年8月8日未明、板橋ダムは大量の水圧に耐えきれず決壊しました。この決壊によって放出された膨大な水流は、下流地域を一瞬にして濁流に飲み込みました。さらに恐ろしいことに、この板橋ダムの決壊は連鎖的な被害を引き起こしました。周辺地域にあった石漫灘ダムを含む2基の大規模ダム、竹溝（ちくこう）ダム、田崗（でんこう）ダムといった2基の中規模ダム、そして58基に及ぶ小型ダムも、次々と破壊されたのです。

この広範囲にわたるダムの連鎖決壊は、想像を絶する大災害となりました。激しい洪水によって家屋は流され、多くの人々が逃げる間もなく命を落としました。直接的な溺死や堤防決壊による死傷者は数万人に上ると推定されています。さらに、難を逃れた人々も、その後の食糧不足や医療物資の欠乏、劣悪な衛生状態の中で、感染症の蔓延などによって多数が犠牲となりました。これら間接的な死者を含めると、犠牲者の総数は26,000人から最大240,000人に達するという様々な推計があります。この被害規模は、人類史上発生したダム決壊事故の中で最も多くの犠牲者を出した、歴史上最大のダム災害として記録されています。

事故後の対応と情報の公開

この壊滅的な事故に対し、当時の中国政府は詳細な情報を徹底的に隠蔽する方針を取りました。事故の事実は長らく国家機密とされ、被害の全貌や原因、犠牲者数などに関する情報は厳しく制限され、対外的に公表されることはありませんでした。

事故発生から長い年月が経過し、2005年に中国国内の法律が改正されたことで、ようやく板橋ダム決壊事故に関する一部の関連データが公にされることになりました。しかし、この際に公開された死傷者数や被災範囲に関する公式発表についても、実際の被害規模を意図的に過小評価するために改竄されているのではないかという指摘や見方が、現在も根強く存在しています。

ダムの再建

決壊によって失われた板橋ダムは、事故後に再建の計画が立てられました。新しい板橋ダムの建設は1986年に着工され、約7年間の工事期間を経て1993年に無事竣工しました。これにより、この地域の治水機能は再び回復されています。

関連事項

昭和50年台風第3号
板橋ダムの決壊

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