林家正楽

林家正楽：東京と上方の落語家、そして紙切り芸人の系譜

林家正楽という芸名は、東京（江戸）と上方両方の落語界で用いられてきた名跡です。現在、いずれも空き名跡となっていますが、長きにわたり多くの芸人がこの名跡を継承し、それぞれの持ち味で活躍しました。本稿では、上方と江戸の林家正楽、そして特に紙切り芸人として著名な林家正楽の系譜をたどり、その生涯と芸について詳しく見ていきます。

上方の林家正楽

上方では、初代から五代目までの林家正楽が確認されています。それぞれの詳細は必ずしも明らかではありませんが、いずれも上方落語界で活躍した名跡であることは間違いありません。特に六代目林家正楽（1858-1929、本名：織田徳治郎）は、1883年に林家宗太郎に入門し、「林家新三」として初舞台を踏みました。「藤原派」「互楽派」といった様々な落語家集団に参加し、神戸を中心に活躍しました。俳句もたしなみ、弟子を持つほどの実力だったと言われています。代表的な演目には「鉄砲勇助」があり、現在でも多くの落語家によって演じ継がれています。

江戸の林家正楽

江戸（東京）の林家正楽は、紙切り芸との関わりが深いのが特徴です。初代（自称八代目）林家正楽（1896-1966、本名：一柳金次郎）は、長野県出身。当初は落語家を目指しましたが、信州なまりが抜けず、落語家としては成功しませんでした。転機となったのは、紙切りでした。睦会の忘年会で披露した紙切りが好評となり、関東大震災を機に紙切り師に転身。1925年に「正楽」を襲名し、マッカーサーやスカルノ、昭和天皇の前で芸を披露するなど、時代の寵児となりました。1952年にはNHKカラーテレビの公開試験放送で紙切りを披露し、カラーテレビに出演した最初の芸人となりました。

二代目林家正楽（1935-1998、本名：山崎景作）は、埼玉県出身。八代目林家正蔵に入門しましたが、埼玉弁のアクセントが抜けず、落語家としての道を断念。初代林家正楽に師事し、紙切りに転向しました。1957年に「林家小正楽」、1967年に「二代目林家正楽」を襲名し、独特の切り口とユーモアのセンスで人気を博しました。NHKの連続テレビドラマ「晴のちカミナリ」にも出演しています。

三代目林家正楽（1948-2024、本名：秋元真）は、東京都出身。林家小正楽に師事し、紙切り芸人として活躍しました。2000年に三代目林家正楽を襲名し、寄席史上初の紙切り主任を務めました。雑誌「東京かわら版」の表紙紙切りを担当するなど、長年にわたって寄席やメディアで活躍しました。2020年には芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、紙切り芸の発展に大きく貢献しました。

各時代の林家正楽と紙切り

このように、林家正楽の名跡は、時代とともにその芸風や活動内容を変えながら、落語と紙切りという異なる芸の世界に輝きを放ってきました。初代から三代目までの江戸の林家正楽は、紙切りという芸を通して、日本の伝統芸能に新たな魅力を加え、現代にまでその技と名を伝えています。彼らの功績は、単なる芸人の枠を超え、日本の文化史に刻まれたと言えるでしょう。それぞれの正楽の芸風や人となり、そして彼らを支えた弟子や家族、関連作品についても、今後更なる研究が必要とされます。

まとめ

林家正楽という名跡は、上方落語と江戸落語、そして紙切りという異なる分野において、多くの才能ある芸人たちによって受け継がれてきました。その系譜と業績をたどることで、日本の伝統芸能の多様性と発展の歴史を垣間見ることができるでしょう。今後の研究によって、さらに多くの情報が明らかになることを期待します。

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