林柳波

林柳波（はやし りゅうは）の生涯

林柳波は、明治25年（1892年）に群馬県沼田市で生まれました。本名を林照壽（てるとし）といい、一時、柴田姓を名乗っていた時期もありました。幼少期から文学に興味を持ち、童謡詩を雑誌に投稿する文学少年でした。

教育と薬剤師としてのキャリア

13歳で上京し、兄を頼りながら明治薬学校（現・明治薬科大学）に進学。明治43年（1910年）に卒業し、薬剤師の国家試験に合格しました。その後、母校で講師を務める傍ら、東京本郷で薬局を開業しました。

結婚とスキャンダル

大正5年（1916年）に最初の結婚をしましたが、翌年には死別。その後、宗教や哲学にも関心を抱き、独自の「健全哲学（哲理療法）」を提唱する活動も行いました。

大正8年（1919年）には、9歳年上の未亡人、日向きむ子と再婚しました。きむ子は大正時代の美人として知られ、代議士の妻であり、社交界の花形でした。しかし、きむ子の夫が疑獄事件で亡くなった直後の再婚は世間から非難を浴び、スキャンダルとして大きく報道されました。しかし、柳波はきむ子を支え続け、本郷にあったきむ子の化粧品店「瓢々堂」で共に生活し、2人の子供をもうけました。

童謡運動への貢献

大正時代に鈴木三重吉が創刊した『赤い鳥』をきっかけに童謡運動が盛り上がりを見せました。野口雨情の依頼により、きむ子が童謡に振り付けを行い、『金の星』に写真入りで解説を掲載したことがきっかけで、柳波も再び詩作を始めました。娘たちと「童謡舞踊」を広めたきむ子と共に、柳波は童謡運動に大きく貢献しました。

戦中・戦後の活動

昭和に入ると童謡運動は下火になりますが、柳波は詩集の出版や音楽著作権協会の設立委員、文部省の教科書編纂委員などを務めました。文部省唱歌の選考では、野口雨情の弟子の作品を補作して採用させたことが、後に盗作疑惑を招くことにもなりました。

また、レコード作家としても才能を開花させ、「まぼろしの泉」でデビュー。その後、軍歌からオペラまで幅広いジャンルの作詞を手掛けました。

昭和20年（1945年）の空襲で長野県に疎開。地元で校歌や音頭の作詞を手掛け、公民館長も務めました。帰京後は妻のきむ子と疎遠になり、別居。その後は、きむ子に関係する童謡関係者との交流を絶ちました。

晩年と名誉

晩年は、明治薬科大学の図書館長を務めるなど、多くの公職を歴任しました。昭和47年（1972年）には勲四等瑞宝章を受章。妻きむ子の死後、昭和49年（1974年）に生涯を閉じました。平成元年（1989年）には、故郷の沼田市で名誉市民として顕彰されました。

主な作品

作詞
「うみ」（作曲:井上武士）
「うぐいす」（作曲:井上武士）
「おうま」（作曲:松島つね）
「ざんぶりこ」（作曲:宮原禎治）
「羽衣」（作曲:橋本國彦）
「スキーの歌」（作曲:橋本國彦）
「かくれんぼ」（作曲:下総皖一）
「長い道」（作曲:下総皖一）
「婆やのお家」（作曲:本居長世）
「ああ我が戦友（軍歌）」
口語訳・補作
『春の小川』口語訳（原詞は高野辰之）
『たなばたさま』補詞（原詞は権藤花代)
『みなと (唱歌)』補詞（原詞は旗野十一郎）
団体歌
明治薬科大学学歌（作曲:古関裕而）
横浜市立根岸小学校校歌 作詞（作曲:井上武士）
横浜市立戸部小学校校歌 作詞（作曲:井上武士）
長野市立下氷鉋小学校校歌 作詞（作曲:井上武士）
小布施村青年団歌（作曲:井上武士）

著書

(林照壽名義) 『無機化学要訣』 宮沢書店、1912年。
(林照壽名義。藤井太吉との共著) 『新有機化学粋. 芳香体編,脂肪体編』 明治薬学校、1915年。
(柴田照壽名義) 『受験記憶無機化学表解』 明治薬学校、1916年。
(柴田照壽名義) 『薬剤師受験術』 宮沢書店、1917年。
(柴田照壽名義。矢島襄二との共著) 『新製薬化学粋. 無機編,有機編』 明治薬学校、1917年-1918年。
(林照壽名義) 『第四改正日本薬局方註解全集』 山百合庵書房、1921年。
(林照壽名義) 『有機化学』 山百合庵書房、1924年。
(林柳波名義) 『(詩集) 木蓮華』 秋山書房、1929年。
(林照壽名義) 『黙示療法』 シンフオニー出版社、1931年。
(林柳波名義) 『山彦』 京文社、1937年。
(林柳波名義) 『剛堂恩田重信』 明友薬剤師会、1944年。



林柳波は、童謡作詞家、詩人、薬剤師として多才な才能を発揮し、激動の時代を生き抜きました。その生涯は、日本の文化史に深く刻まれています。

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