林献堂

林献堂：台湾民族運動の先駆者

林献堂（りんけんどう、1881年 12月3日 - 1956年 9月8日）は、日本統治時代の台湾において、民族運動を主導した人物であり、同時に実業家としても手腕を発揮しました。彼は、台湾の自治と権利拡大のために生涯を捧げ、「台湾議会之父」とも称されています。

生い立ちと初期の活動

林献堂は、現在の台中市霧峰区にあたる彰化県阿罩霧荘の名家、霧峰林家に生まれました。霧峰林家は、板橋林本源家と並ぶ台湾有数の資産家であり、その歴史は清朝期台湾の漢族開拓史を象徴しています。父は清末の挙人である林文欽です。15歳の時、日本の台湾占領を経験し、父が抗日義勇軍を組織したため、一時的に家族と共に泉州へ避難しました。

梁啓超との出会いと啓発

1907年、奈良旅行中に、林献堂は中国維新運動の指導者であり、彼が尊敬していた梁啓超と偶然出会いました。林献堂は、異民族の統治下で差別や搾取を受けている現状、特に愚民教育しか受けられない状況を嘆きました。梁啓超は、当時台湾を救う力がない中国に代わり、アイルランドの抗英運動を例に挙げ、平和的な手段で法的、経済的な平等を獲得し、議会に代表を送り込むべきだと助言しました。この助言は、その後の彼の穏健的な民族運動路線に大きな影響を与えました。

1910年には、台湾三大詩社の一つである櫟社に参加し、1913年には台湾北部・中部の人々と共に、台湾人出資による中学校設立を総督府に請願し、1915年、公立台中中学（現在の台中一中の前身）設立に貢献しました。

台湾同化会から新民会へ

1914年、板垣退助を台湾に招き、「台湾同化会」の創設に尽力しました。この会は、表向きは台湾人の日本への同化を掲げていましたが、実際には台湾人の待遇改善を目指していました。しかし、総督府の圧力により、わずか2ヶ月で解散を余儀なくされました。その後、林献堂は日本に渡り、林呈禄や蔡培火ら台湾人留学生と交流を深め、民族意識と政治意識を高めました。1919年には、六三法撤廃を目指す「啓発会」を設立し、会長に就任しましたが、具体的な活動を行うことなく解散しました。1920年には、林呈禄らと共に「新民会」を東京で結成し、会長に就任しました。当初は六三法撤廃を運動の中心としていましたが、次第に台湾の自治を求める声が強まり、台湾議会設置運動へと方針を転換しました。1921年、帝国議会に台湾議会設置請願書を提出し、以後15回にわたる請願運動を開始しました。

台湾文化協会の設立と活動

1921年、林献堂は蔣渭水らと共に「台湾文化協会」を設立し、総理に就任しました。この協会は、台湾人の文化啓蒙を目的としていましたが、民族意識の向上にも大きく貢献しました。1923年には『台湾民報』を創刊し、社長を務めました。また、1924年から3年間、霧峰の林家の菜園を開放して夏季学校を開催し、文化啓蒙活動を積極的に展開しました。

台湾議会設置請願運動と総督府の対応

台湾議会設置請願運動に対し、日本政府と台湾総督府は、台湾独立を最終的な目的とするものとして警戒し、圧力を加えました。総督府は、懐柔策として林献堂を評議会員に任命しましたが、彼は請願運動から離脱することはありませんでした。総督府は、林献堂の債権者に圧力をかけたり、集会を禁止したり、治安警察法を適用して蔣渭水らを起訴するなど、運動を抑圧しようとしました。しかし、林献堂は、蔣の家族を支援し、総督府による新聞封鎖の中で事件経過を「朝日新聞」に報道させるなど、運動を継続しようとしました。

台湾文化協会の分裂と晩年

「台湾文化協会」は、1927年に左右の路線対立で分裂し、林献堂は退会しました。その後、台湾地方自治聯盟を結成し、顧問に就任しました。組織的な民族運動からは距離を置きましたが、台湾総督らに個人的に台湾政治の改革を建議しました。1930年代以降、台湾総督府当局の民族運動への取り締まりは強化され、林献堂への圧力も強まりました。内台融和を目指す活動も行いましたが、日本の右翼団体の圧力に抗しきれず解散。また、中国を「祖国」と呼んだことで右翼浪人に殴打される事件も起こりました。戦時体制下では、皇民奉公会に加わり、貴族院議員にも任命されました。

戦後、林献堂は台湾省参議会議員に当選しましたが、議長選出を巡り辞任しました。二・二八事件の際には、調停役を担い、事件後の善後策についても提言しました。その後、台湾省文献委員会の委員長に任命されましたが、病気を理由に台湾を離れ、日本に移りました。その後、蔣介石の説得にも応じず、1956年に東京で亡くなりました。享年76歳。

実業家としての活動

林献堂は、実業家としても活躍し、台湾電力や台湾製紙の設立に関わりました。また、台湾人の企業設立を支援するため、大東信託株式会社を設立しました。

著書

- 灌園先生日記

林献堂は、その生涯を通して台湾の自治と権利拡大のために尽力し、台湾の民族運動史に大きな足跡を残しました。

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