蔣渭水

蔣渭水（しょう いすい、1890年8月6日 - 1931年8月5日）は、台湾の宜蘭出身の社会運動家であり、字を雪谷と称しました。日本統治時代の台湾において、彼は台湾文化協会と台湾民衆党を創設し、非暴力的な民族運動の重要な指導者として活躍しました。

生涯

蔣渭水の父、蔣鴻章は宜蘭城隍廟で相命を務めていたため、蔣渭水は幼少の頃から台湾の宗教や民俗に深く触れて育ちました。彼は儒学者である張茂才のもとで学び、その後宜蘭公学校に進学しました。1915年には台湾総督府医学校（現在の国立台湾大学医学部）を卒業し、近代医学と文明の知識を身につけました。この経験が、後の彼の社会運動への参加の基礎となりました。

医学校卒業後、蔣渭水は台北市太平町（現在の大稲埕の一部、延平北路）に大安医院を開業しました。1917年には春風得意楼を組織し、医師や学生などの有志を集めて台湾社会の問題や改革について議論を重ねました。1920年からは台湾議会設置請願運動に参加し、翌年には同志と共に台湾文化協会を設立し、台湾における民権運動を提唱しました。しかし、1923年には治安警察法違反で禁固4ヶ月の判決を受けるなど（治警事件）、その後も台湾総督府批判により、1925年には再び禁固4ヶ月とされるなど、十数回にわたって逮捕されました。

1927年、台湾文化協会は左派と右派の運営路線の対立により分裂しました。蔣渭水はその後、台湾民衆党を設立し、自身が中央常務委員兼財政部長に就任しました。台湾民衆党は、地方自治と言論の自由の獲得を目指す政党でした。彼はその後も社会運動に積極的に参加し、1928年には台湾工友総聯盟や台湾農民協会にも参加し、階級闘争を中心とした社会運動を組織しました。しかし、その運動方針は党内右派の反発を招き、1930年には林献堂、蔡培火、葉栄鐘などの右派が離党し、台湾地方自治聯盟を組織しました。台湾民衆党は、国際連盟に対し、総督府が実施しているアヘン販売の専売制や霧社事件を訴えるなど、台湾問題を国際社会に訴える活動も行いました。

台湾民衆党は孫文の三民主義を党是とし、蔣渭水や謝春木の主導のもと、農民運動、労働者運動へと発展していきました。その結果、1931年には総督府によって解散命令が出され、台湾民衆党は解散しました。蔣渭水も同年、「同胞は団結すべき、団結こそが力なり」という遺言を残し、40歳でその生涯を終えました。同年8月23日には市民葬が執り行われ、5千人の市民が参列しました。

評価

蔣渭水の活動は台湾で非常に高く評価されています。国道5号線は蔣渭水高速公路と名付けられ、また台北市錦西街の錦西公園も蔣渭水紀念公園と改称されるなど、彼の業績は広く顕彰されています。2010年8月には、台湾で蔣渭水を図象とした記念硬貨が発行されました。


彼の生涯は、日本統治下の台湾における社会運動の重要な一部であり、その思想と行動は現代の台湾にも大きな影響を与え続けています。

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