果物籠 (カラヴァッジョ)

カラヴァッジョ作『果物籠』の詳細解説

『果物籠』（くだものかご、伊: Canestra di frutta、英: Basket of Fruit）は、17世紀初頭のイタリア・バロックを代表する画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョが、1597年から1600年頃に制作した油彩の静物画です。この作品は、西洋美術史において、独立した静物画の初期の傑作の一つとして高く評価されています。

歴史的背景

カラヴァッジョが活躍した16世紀末から17世紀初頭にかけて、静物画はまだ独立したジャンルとしては確立していませんでした。しかし、カラヴァッジョは、この作品で静物画を独立した芸術表現として確立する上で重要な役割を果たしました。カラヴァッジョより少し前に、ジョヴァンニ・アンブロージョ・フィジーノが1591年から1594年に描いた『桃とブドウの葉』は、カラヴァッジョに影響を与えたと考えられています。カラヴァッジョは、本作以前にも静物画を描いていた可能性が指摘されていますが、現存する彼の静物画は本作のみです。美術史家のシャルル・ステルランは、カラヴァッジョを「独立した静物画を描いた最初の近代の巨匠」と評しています。

本作は、17世紀初頭にミラノ大司教であったフェデリコ・ボッロメーオ枢機卿によって、アンブロジアーナ図書館（美術館併設）に寄贈されました。ボッロメーオ枢機卿は、フランドルの画家ヤン・ブリューゲル（父）を庇護し、その花の絵画を高く評価するなど、新しい絵画ジャンルに対する理解が深い人物でした。カラヴァッジョの静物画を喜んで受け入れたのも、その幅広い芸術的関心の現れと言えるでしょう。この作品がボッロメーオ枢機卿の手に渡った経緯は正確には不明ですが、当時、ローマでフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿のそばに住んでいたことから、デル・モンテからの贈り物である可能性が高いと推測されています。デル・モンテは、カラヴァッジョの作品をトスカーナ大公などの要人への贈り物として利用していました。

作品の特徴

この作品は、X線調査によって、花綱を持つプットを描いたキャンバスが再利用されていることが判明しました。このキャンバスは、「グロテスク装飾の画家」として知られるプロスぺロ・オルシの手によるものと考えられています。また、背景は珍しく淡い黄色で塗りつぶされていますが、この黄色い地があることで、果物籠と葉の写実的な描写がより際立ち、作品に生命感を与えていると考えられます。

カラヴァッジョは、『果物籠』以外にも、『果物籠を持つ少年』や『エマオの晩餐』で果物籠を描いており、これらの作品に見られる籠の形状は共通しています。また、『エマオの晩餐』と同様に、籠が鑑賞者の空間に突出するように描かれており、カラヴァッジョの「突出効果」がすでにこの作品に見られることがわかります。さらに、果物籠が鑑賞者の目の高さと同じ位置に描かれているだけでなく、下から見上げるような視点で描かれているため、作品がモニュメンタルな印象を与えています。

この作品の描写において、カラヴァッジョは、花瓶の描写にも人物描写と同じくらい労力をかけると主張していたと伝えられています。虫食いのリンゴやブドウ、洋ナシなど、夏の終わりから秋の初めにかけての果物が描かれており、実際に置かれた果物籠を観察しながら描かれたと考えられています。果物籠の描写は、細部まで徹底した写実性で描かれており、あたかも目の前に実物があるかのような強い存在感があります。しかし、その描写は細部に拘りながらも、非常に大胆な筆致で描かれており、写実的な表現とモニュメンタルな存在感が絶妙に融合している点が、この作品の大きな魅力となっています。この融合は、カラヴァッジョの故郷であるロンバルディア地方とローマ、あるいは北方絵画とイタリア絵画の特性が混ざり合っているとも解釈できます。

作品の解釈

作品を所有していたボッロメーオ枢機卿は、自身の著作の中でこの作品について「比類なき美しさと素晴らしさで、唯一のものであった」と述べています。また、本作は様々な解釈がされてきました。その一つに、宗教的な解釈があり、虫に食われた果物や枯れていく葉と、新鮮な果物の対比が、時の流れや人生の儚さを表現していると考えることができます。

まとめ

カラヴァッジョの『果物籠』は、独立した静物画の先駆けとしてだけでなく、その写実的な描写や大胆な構図、そして作品に込められた様々な解釈によって、今もなお多くの人々を魅了しています。この作品を通して、カラヴァッジョの卓越した芸術性と、静物画というジャンルの可能性を再認識することができるでしょう。

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