柄井川柳

柄井川柳：江戸川柳の礎を築いた名点者

柄井川柳（からいせんりゅう、1718年-1790年）は、江戸時代中期に活躍した前句付け川柳の点者であり、現代に続く川柳文化の礎を築いた重要な人物です。浅草新堀端の名主の家に生まれ、宝暦5年（1755年）には家督を継ぎました。

当初は談林派俳諧の点者であったと伝えられていますが、宝暦7年（1757年）8月25日、無名庵川柳と号し、前句付けの点者として最初の万句合を興行したことが、その本格的な活動の始まりとなります。その後、毎月3回、5のつく日に句会を開催し、その人気は爆発的に高まりました。宝暦12年（1762年）の句会には、参加句が1万句を超える盛況ぶりで、当時の人々の川柳への熱狂が伺えます。

明和2年（1765年）、呉陵軒可有との協力のもと刊行された『誹風柳多留』は、大きな転換点となりました。この書物は、それまでの川柳集とは異なり、前句を全て省略した前句付集として史上初めて刊行されました。これにより、一句で意味が完結する「一句立ち」の句が広く普及し、「川柳」という表現が定着するきっかけとなりました。この『誹風柳多留』の大成功により、柄井川柳は他の点者を圧倒し、江戸第一の点者としての地位を確立しました。

柄井川柳の出題は、14字題の前句付けと冠付のみという簡潔なものでしたが、その選句眼の確かさと新しい趣向を取り入れる姿勢は、多くの作者を魅了しました。上級武士を含め、多くの前句付け作者が柄井川柳の句会に参加し、その人気は絶大でした。『柳多留』十六編には「あたらしい趣向むすべば手柄多し」という言葉が残されており、彼の革新的な姿勢を表しています。

寛政2年（1790年）9月23日、柄井川柳は亡くなりました。辞世の句と伝えられる「木枯らしや 跡で芽をふけ 川柳」は、彼の生涯と川柳への深い愛情を象徴する名句と言えるでしょう。

柄井川柳とその系統は、2世、3世が実子、4世以降は社中から後継者が選ばれ、16世（尾藤川柳）まで川柳号は受け継がれました。現在でも、柄井川柳の功績を称え、最初の万句合が催されたとされる場所には「川柳発祥の地」の碑が建立されています。平成19年（2007年）に川柳発祥250年を記念して建てられたこの碑は、柄井川柳が江戸の文化に与えた大きな影響を今に伝えています。

柄井川柳は、単なる点者としてだけでなく、川柳という文化を確立し、発展させた立役者と言えるでしょう。彼の革新的な試みと高い選句眼、そして新しい趣向を常に求める姿勢は、後の川柳界に大きな影響を与え続け、現代の私たちにも川柳という豊かな文化を受け継がせてくれました。彼の功績は、これからも多くの人々に記憶され、称えられるに値するものです。

関連文献

鈴木勝忠『柄井川柳 無作の指導者』新典社〈日本の作家〉、1982年
『初代川柳選句集』千葉治校訂　岩波文庫、1960年
* 芳忠淳著 尾藤一泉編『柳のしおり 九世柄井川柳・前島和橋をたずねて』玄武堂出版　2005年

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