柏木昭

柏木 昭（かしわぎ あきら）

日本の福祉学者、教育者（1927年 - 2023年12月30日）。神奈川県に生まれ、生涯を通じて日本の福祉、特に精神保健福祉の分野において多大な貢献を果たしたパイオニア的存在である。

柏木氏は、青年期に独特な経験を積んだ。第二次世界大戦末期、1943年（昭和18年）に海軍兵学校へ入学。当時の校長は後に海軍大臣となる井上成美であった。しかし、卒業を待たずに1945年（昭和20年）の終戦を迎えた。

戦後、青山学院専門学校建築科で学んだ後、1950年（昭和25年）から1952年（昭和27年）にかけて横須賀基督教社会館に勤務。この期間にソーシャルワークという専門職に出会い、生涯の志を定めることになる。当時のE.W.トムソン氏の勧めもあり、アメリカへの留学を決意。留学生試験を経て、1952年（昭和27年）にボストン大学スクール・オブ・ソーシャルワークに入学し、1954年（昭和29年）に修士号（Master of Science）を取得して帰国した。

帰国後、1955年（昭和30年）に国立精神衛生研究所に入職。研究職技官として、日本の精神保健分野における草分け的な研究に30年以上にわたり従事した。この研究所での経験は、その後の教育・研究活動の基盤となった。

国立精神衛生研究所を退官後、教育者としてのキャリアを本格化させる。1988年には淑徳大学教授に就任し、1998年からは聖学院大学教授として教壇に立った。聖学院大学では、晩年まで名誉教授として、また聖学院大学総合研究所人間福祉スーパービジョンセンター顧問として、後進の指導と研究活動を続けた。

柏木氏の最大の功績の一つは、精神保健分野における専門職の確立への貢献である。1965年（昭和40年）には、日本精神医学ソーシャルワーカー協会（現在の日本精神保健福祉士協会）を創設。専門職団体の設立を通じて、精神障がい者の支援に携わるソーシャルワーカーの地位向上と専門性の発展に尽力した。同協会においては、長らく名誉会長を務め、その発展を見守った。

また、氏は様々な学会や団体の活動にも積極的に関与した。日本社会福祉学会名誉会員、国立精神衛生研究所名誉研究員の称号を持つほか、2008年まで日本デイケア学会理事長を務め、精神科デイケアの普及・発展に貢献。さらに、NPO法人けやき精神保健福祉会理事長として、地域における精神保健福祉活動の実践にも深く関わった。

柏木氏の思想や研究成果は、多数の著書や編著、翻訳として結実しており、日本の精神保健福祉分野における理論と実践の普及に大きく貢献した。代表的な著作には、初期の精神衛生に関する啓蒙書から、専門的なケースワーク論、精神保健福祉援助技術に関するテキストまで多岐にわたる。

主な著書・編著・翻訳は以下の通り。

『親と子の精神衛生』日本基督教団出版部 女性と生活シリーズ 1963年
『ケースワーク入門』川島書店 1966年
『社会福祉と心理学』越智浩二郎共著 一粒社 1977年
『精神医学ソーシャル・ワーク』編 岩崎学術出版社 1986年
『医療と福祉のインテグレーション』籏野脩一共編 へるす出版 1997年
『精神保健福祉援助技術総論』大野和男と編集代表 へるす出版 1998年
『精神保健福祉論』高橋一と編集代表 へるす出版 1998年
『精神科リハビリテーション学』徳永純三郎, 荒田寛, 木太直人と編集代表 へるす出版 1998年
『精神保健福祉援助演習』石川到覚, 荒田寛と編集代表 へるす出版 2005年 （改訂第3版）
『精神保健福祉援助技術総論』大野和男, 荒田寛と編集代表 へるす出版 2005年 （改訂第3版）
『これからの精神保健福祉 精神保健福祉士ガイドブック 第4版』荒田寛, 佐々木敏明共編 へるす出版 2009年
『ソーシャルネットワーク協働の思想 "クリネー"から"トポス"へ』佐々木敏明, 荒田寛共著 へるす出版 2010年
『みんなで参加し共につくる 福祉の役わり・福祉のこころ』岸川洋治共著 聖学院大学出版会 2011年
『ソーシャルワーカーを支える人間福祉スーパービジョン』中村磐男共編著 聖学院大学出版会 2012年
『「いま、ここで」のかかわり 福祉の役わり・福祉のこころ』石川到覚共著 聖学院大学出版会 2013年
オーバートン, ティンカー編『ケースワークノートブック』仲村優一共訳 川島書店 1969年
* オーバートン, ティンカー編『家族中心ケースワーク』仲村優一共訳 川島書店 1977年

柏木昭氏は、研究者、教育者、そして実践家・組織者として、日本の精神保健福祉分野の発展に不可欠な役割を果たした人物である。その功績は、現在活躍する多くの精神保健福祉士や関係者に引き継がれている。

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