柘榴坂の仇討

柘榴坂の仇討：時代劇の重厚さと人間ドラマの深み

浅田次郎の短編小説『柘榴坂の仇討』は、2002年に『中央公論』誌に掲載され、後に短編集『五郎治殿御始末』に収録されました。この作品は、2014年に映画化され、高い評価を受けました。

主君を失った武士の苦悩

物語は、彦根藩の下級武士・志村金吾が、藩主・井伊直弼の近習として仕えていたことから始まります。直弼を深く敬愛する金吾でしたが、安政7年の桜田門外の変で、直弼が水戸浪士に暗殺された際に、仇敵・佐橋十兵衛を追いかけるあまり行列から離れてしまい、主君の最期を看取ることができませんでした。

この責任を問われた金吾は、当初は打ち首の刑に処せられる予定でしたが、両親が既に自害していることを考慮され、代わりに「水戸浪士を討ち、直弼の墓前に首を供えよ」と命じられます。

13年にわたる執念の仇討ち

金吾は仇討ちのため、全国を奔走しますが、水戸浪士たちは既に多くが亡くなっていました。唯一生き残っていたのが、かつて金吾が追い詰めた十兵衛でした。十兵衛は、既に「直吉」と名を変え、刀を捨てて車夫として静かに暮らしていました。

明治維新後の世の中、武士の時代は終わりを迎えようとしていました。しかし、金吾は13年前の藩の命令を胸に、仇討ちの執念を捨てきれずにいました。金吾の親友であり司法省の役人である内藤新之助は、金吾の苦悩を察し、かつて水戸浪士たちの取り調べに関わった秋元和衛警部に協力を仰ぎます。秋元は、かつての武士仲間として金吾を助け、十兵衛の居場所を知らせます。

柘榴坂での決断

金吾は十兵衛のもとへ向かいますが、その直後、新政府から「仇討禁止令」が出されます。十兵衛の人力車に乗り込んだ金吾は、十兵衛が自分と同じく両親を失い、孤独に生きてきたことを知ります。柘榴坂を登り切ったところで、十兵衛は金吾に自害を懇願します。

金吾は十兵衛に自らの刀を与え、一騎討ちを挑みます。激しい戦いの末、十兵衛は再び金吾に自害を願いますが、金吾は直弼の言葉と秋元の言葉を思い返し、十兵衛の新しい人生を許す決断をします。

映画『柘榴坂の仇討』

映画では、中井貴一が金吾役、阿部寛が十兵衛役を演じ、広末涼子が金吾の妻・セツ役として出演しています。監督は若松節朗、音楽は久石譲が担当しました。2014年9月20日（滋賀県では9月13日）に全国255スクリーンで公開され、初登場4位を記録するなど話題となりました。

映画は、原作の38ページの短編を2時間映画にするために、脚本の改稿を30回以上繰り返したと言われています。原作には登場しない内藤新之助や、十兵衛のその後、金吾とセツの関係なども新たに描かれ、より深く、人間ドラマに富んだ作品となりました。

中井貴一と阿部は、役柄の関係上、撮影期間中ほとんど会話せず、完成報告記者会見では監督から「こんなに仲の悪い2人はいない」と冗談を言われるほどでした。

映画は、時代劇としての重厚さと、人間ドラマの深みが見事に融合した作品として高く評価され、数々の賞を受賞しました。広末涼子は助演女優賞、真飛聖は新人女優賞を受賞するなど、多くの俳優陣の演技も高く評価されています。

まとめ

『柘榴坂の仇討』は、時代劇としての見どころはもちろんのこと、主君を失った武士の苦悩、仇討ちの是非、そして時代の変わり目における人間の生き様を描いた、心に響く感動的な作品です。小説と映画、両方の作品から、時代と人間の深いドラマを感じ取ることができます。

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