柴田タカ

柴田 タカ

生涯

柴田 タカは、1916年（大正5年）10月10日に山形県山形市で生を受けました。菓子店の長女として生まれ、幼い頃から家業を支えていたようです。山形高等女学校（現在の山形県立山形西高等学校）に在学中、彼女のスポーツへの才能が開花します。

ロサンゼルスオリンピック出場

柴田タカの名前が広く知られるきっかけとなったのは、1932年（昭和7年）に開催されたロサンゼルスオリンピックへの出場でした。当時まだ学生であった彼女は、女子100メートル競走の日本代表選手に選ばれます。これは、山形県からオリンピックに出場した初の女性アスリートとして、特筆すべき出来事でした。大会では予選で敗退し、公式記録には「記録なし」と記されています。

同じ大会には、同年生まれの渡辺すみ子選手も女子100メートル走に出場しており、満15歳という日本人陸上選手の最年少出場記録（2022年現在も保持）を樹立しました。柴田選手もまた、渡辺選手に次ぐ若さでのオリンピック出場者の一人とされています。彼女の正確な生年月日は資料によって異なり、日本陸上競技連盟では1916年生まれで満16歳での出場としていますが、生まれた月日は不詳としています。一方、Sports Reference LLC.は10月10日生まれとしていますが、その根拠は明らかにされていません。さらに、山形県郷土館の資料では「15歳で出場」との記述も見られ、当時の年齢については諸説が存在します。

「模範的なスポーツ少女」として

オリンピック出場後も、柴田タカは学生アスリートとして注目を集めました。1934年（昭和9年）6月発行の『少女倶楽部』という雑誌に掲載された特集記事「女子スポーツ選手グラフ」では、同世代の著名な女性アスリートたちと共に紹介されています。当時、山形女子師範学校の3年生であった彼女は、100メートル走で12秒6という優れた記録を持っていました。しかし、記事では単に競技力だけでなく、彼女が学業にも真剣に取り組み、さらに6人の弟妹の世話や家業である菓子店の店番を務めるなど、家庭でも責任を果たしていたことが記されています。このように、柴田タカはスポーツで活躍するだけでなく、学業や家庭生活との両立を実践する、当時の社会が理想とした「模範的なスポーツ少女」の典型として紹介されたのです。

選手引退後

山形女子師範学校を卒業した柴田タカは、その後、小学校の教諭として教壇に立ち、子供たちの教育に貢献しました。教育者としての道を歩む傍ら、山形市内の寺院に嫁ぎ、妻として、また母として、4人の子供を育て上げました。家庭に入ってからも、彼女はアスリートとしての過去を誇示することはありませんでした。子供たちには、自身がオリンピック選手だったことを自慢しないように話していたと言われています。このエピソードは、現在、山形県郷土館（文翔館）において、柴田タカの謙虚で誠実な人柄を示すものとして紹介されています。

柴田タカの生涯は、競技者としての輝き、教育者としての献身、そして家庭人としての温かさなど、多岐にわたる側面を持っていました。特に、当時の女性アスリートが競技だけでなく、家庭や社会生活においても模範となることを期待されていた時代背景の中で、彼女はその期待に応えながら、控えめながらも確かな足跡を残しました。1991年（平成3年）にその生涯を閉じるまで、彼女は故郷山形において、静かに、しかし確固たる存在感を示し続けました。

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