柿沼進

柿沼進：音楽とピッツァへの情熱を追求する異才

柿沼進（1958年生まれ）は、単なるピザ職人ではありません。彼は、ジャズミュージシャンとしての顔も持ち、音楽と食、二つの芸術を融合させる独自の道を歩んでいます。彼が手がけるピッツェリア「聖林館」は、日本におけるナポリピッツァの聖地として、国内外の食通から愛されています。

音楽への挫折とピッツァとの出会い

東京都に生まれた柿沼は、大工の息子として育ちました。高校卒業後、ドラマーとしてジャズオーケストラに所属し、23歳でニューヨークに渡ります。しかし、音楽家としての限界を感じ、帰国。一度は会社員として働くも、音楽への情熱を諦めきれず、「音楽を聴きながら食事のできる店」を開くことを決意します。その時、彼はイタリア旅行で出会ったナポリピッツァの味を思い出したのです。

本格ナポリピッツァへの挑戦

当時、日本では薪窯の不足から、本場ナポリのピッツァは普及していませんでした。柿沼は、1994年にナポリへ渡りピッツァを学びますが、レシピを学ぶのではなく、その本質を理解しようと努めます。そして、イタリアから特注の薪窯を輸入し、1995年4月20日、中目黒に「サヴォイ」をオープン。サルヴァトーレ・クオモの「サルヴァトーレ」と同時期に、日本で本格的なナポリピッツァを提供する先駆けとなりました。

「サヴォイ」のメニューは、マリナーラとマルゲリータの2種類のみ。「本当のナポリピッツァはこの2種類だけ」という彼の強い信念の表れでした。しかし、当時の日本ではアメリカ風ピザやローマ風ピッツァが主流であり、「サヴォイ」は苦戦を強いられます。開業から8か月後、テレビで紹介されたことをきっかけに、予約必須の人気店へと変貌を遂げました。こうして、窯焼きナポリピッツァは日本でブームとなり、「サヴォイ」はその火付け役として、中目黒はナポリピッツァの発祥の地として知られるようになったのです。

聖林館：さらなる高みへ

2007年、柿沼は「サヴォイ」の権利を手放し、同じ中目黒に「聖林館」をオープン。ここでも、メニューはマリナーラとマルゲリータのみ。シンプルながらも、素材と製法にこだわり抜いた、究極のピッツァを提供しています。「聖林館」では、音楽イベントも開催され、柿沼自身が演奏することもあります。2011年には、ピッツァのファストフード店「ピッツァマン・ロケット」もオープンし、新たな挑戦を続けています。

柿沼の作るピッツァは、本場の味を忠実に再現するだけでなく、日本人の味覚に合わせた独自の工夫が凝らされています。蓄熱性を高めた特注のピザ窯も、そのこだわりを象徴しています。音楽とピッツァ、二つの世界を愛し、追求する柿沼進。彼の情熱は、これからも多くの人々に感動と喜びを与え続けるでしょう。

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