栄光の手

栄光の手：ヨーロッパの民間伝承における死者の手

概要

「栄光の手」（Hand of Glory）とは、処刑された人間の乾燥させた手、特に左手、あるいは殺人犯の犯行に使われた手が用いられると信じられていたものです。ヨーロッパの民間伝承において、この「栄光の手」は、特別な蝋燭と組み合わせることで、超自然的な力を持つと信じられていました。その力は、人々を動けなくすること、扉の鍵を開けることなど、様々な効果があると伝えられています。

起源と語源

「栄光の手」という名称は、民間語源であるという説があります。語源学者ウォルター・スキートは、この名称はフランス語の「main de gloire」（栄光の腕）から派生し、マンドレイク（マンドラゴラ）を指す言葉の転訛である可能性を示唆しています。マンドレイクは、夜に光を放つと信じられていた植物であり、この性質が「栄光の手」の神秘的な力と関連付けられたと考えられます。

能力と使用法

ヨーロッパの古い信仰では、「栄光の手」は、絞首刑に処された悪人の脂肪から作られた蝋燭と組み合わせて用いられると信じられていました。「栄光の手」を燭台として、その蝋燭に点火することで、その場に存在する全ての人を動けなくすることができると言われています。この蝋燭は、牛乳でしか消すことができないという伝承もあります。また、「栄光の手」は、鍵を開ける力も持っていると信じられていました。

製造工程

「栄光の手」の製造方法は、18世紀の文献などに詳細に記されています。一般的な方法としては、絞首刑にされた重罪人の手（右手または左手）を、塩、硝石、ヒハツなどの薬草と混ぜて乾燥させ、特別な蝋燭と組み合わせて使用します。蝋燭の材料には、処刑された者の脂肪やバージンワックス、胡麻などが用いられ、その芯には死者の髪の毛が使われたという説もあります。ただし、文献によっては材料や手順に違いが見られるため、その詳細については議論の余地があります。「小アルベール」や「悪行要論」といった文献には、この作成方法が記載されていますが、使用されている言葉の解釈に難しさが残されています。例えば、「ポニー (ponie)」という単語は、馬の糞を意味するとの解釈や、ラップランドの胡麻を意味するという解釈など、様々な見解があります。

防御法

「栄光の手」の影響から家を守る方法も伝承されています。黒猫の胆汁、白い牝鶏の脂肪、コノハズクの血を混ぜ合わせた軟膏を家の敷居などに塗ることで、その効果を防ぐことができると信じられていました。

文化的参照

「栄光の手」は、古くから様々な文化作品に影響を与えてきました。小説、漫画、映画、テレビドラマ、音楽など、様々なジャンルでその概念が登場し、その神秘的な力や恐ろしさなどが描かれています。以下にいくつかの例を挙げます。

文学: ヘロドトスの『歴史』、ジェラール・ド・ネルヴァルの短編小説「La Main de gloire」、ギ・ド・モーパッサンの作品など、多くの作品に登場します。
漫画: 『ヘルボーイ』『インビジブルズ』『Black Magick』など、複数の作品で「栄光の手」が重要な役割を果たしています。
映画: 『ウィッカーマン』『エンゼル・ハート』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』など、様々な映画で「栄光の手」が登場しています。
テレビドラマ: 『スーパーナチュラル』『オリジナルズ』『コンスタンティン』『グレイスランド』など、多くのテレビドラマで「栄光の手」が描かれています。

結論

「栄光の手」は、ヨーロッパの民間伝承において、死と神秘的な力と結びついた、興味深い存在です。その起源や能力については様々な説があり、その真偽は定かではありませんが、数世紀にわたって人々の想像力を掻き立て、多くの文化作品に影響を与えてきたことは確かです。その神秘的なイメージは、現代においてもなお、人々の関心を集め続けています。

もう一度検索