栄螺堂

栄螺堂（さざえどう）とは

栄螺堂（さざえどう、さざいどう）は、江戸時代後期に東北地方から関東地方にかけて建てられた、独特な建築様式を持つ仏堂です。その最大の特徴は、堂内が螺旋構造の回廊になっている点です。この回廊には、三十三観音や百観音などが配置されており、参拝者は堂内を歩くだけで巡礼を済ませたのと同じ功徳が得られるように設計されています。仏教の礼法である右繞三匝（うにょうさんぞう）に基づき、右回りに三回巡ることで参拝できるようになっていることから、本来は三匝堂（さんそうどう）と呼ばれます。しかし、その螺旋構造や外観が巻貝のサザエに似ているため、「栄螺堂」や「さざえ堂」「さゞゐ堂」といった通称で親しまれています。

栄螺堂の起源

栄螺堂の始まりは、武州本所五ツ目（現在の東京都江東区大島）にあった羅漢寺の三匝堂であると考えられています。この三匝堂は、象先が発案し、浄陽がその意思を継いで完成させたとされていますが、完成年については史料によって異なり、『江戸名所図会』では寛保元年（1741年）と、『江戸黄檗禅刹記』などでは安永9年（1780年）とされています。

羅漢寺の三匝堂は三層構造で、各層にそれぞれ西国、坂東、秩父の札所観音像が安置されていました。堂内には右回りに登るスロープがあり、下りは別の階段を利用する構造だったと考えられています。この堂は、当時流行していた観音霊場巡礼を堂内で完結できるようにしたもので、右繞三匝の思想を具現化した初めての建築様式でした。その珍しい構造は、葛飾北斎や歌川広重の錦絵にも描かれるほど人気を博し、『江戸名所旧跡繁花の地取組番附』では前頭四枚目にランクインするほどでした。錦絵からは、内部は三層ですが外観は二層で、下層は方五間、上層は方三間で宝形屋根であり、最上層からは周囲の景色が見渡せたことがわかります。

羅漢寺の三匝堂は安政江戸地震で大きな被害を受け、1875年頃に取り壊されました。その後、再建の計画もありましたが実現せず、仏像は地金屋に売られてしまったものの、高村光雲が5体の仏像を救い出したとされています。

現存する栄螺堂の例

現存する栄螺堂の中で最も有名なのが、福島県会津若松市の飯盛山にある会津さざえ堂です。正式名称は「円通三匝堂」（旧正宗寺三匝堂）といい、国の重要文化財に指定されています。会津さざえ堂は、平面六角形、内部は二重螺旋構造という非常に珍しい建築様式を持っています。右回りに上る斜路と左回りに下る斜路が完全に分かれているため、参拝者は他の人とすれ違うことなく、一方通行で巡ることができます。

会津さざえ堂は、かつてこの地にあった正宗寺の仏堂として、寛政8年（1796年）に当時の住職である郁堂によって建てられました。当時は阿弥陀如来を本尊とし、斜路には西国三十三観音像が安置されていました。しかし、明治初期の廃仏毀釈によって正宗寺は廃寺となり、その後、栄螺堂は個人の所有となっています。堂内にあった観音像は他所へ移され、代わりに「皇朝二十四孝」の額が飾られています。会津さざえ堂のような特異な内部構造を持つ堂は他に類を見ず、非常に稀有な例として知られています。

会津さざえ堂の特徴

会津さざえ堂は、二重螺旋構造を持つ近代以前の建築物として、世界的に見ても非常に珍しい存在です。二重螺旋構造の建築物としては、フランスのシャンボール城にある二重螺旋階段が有名ですが、会津さざえ堂との関連性については、蘭書を通じて情報が伝わったのではないかという説があるものの、確証はありません。

所在地

福島県会津若松市一箕町八幡弁天下1404

交通アクセス

JR会津若松駅前からまちなか周遊バス「あかべぇ」に乗り、「飯盛山下」バス停で下車してください。

まとめ

栄螺堂は、その独特な建築様式と宗教的な意味合いから、江戸時代の人々の信仰と知恵の結晶と言えるでしょう。特に会津さざえ堂は、二重螺旋構造という他に類を見ない特徴を持ち、国の重要文化財としてその価値が認められています。これらの建築物は、現代においても多くの人々を魅了し、歴史と文化を伝える貴重な遺産となっています。

もう一度検索