桂三木助 (3代目)

三代目桂三木助：波乱万丈の生涯と「芝浜」の輝き

三代目桂三木助（1902年3月28日 - 1961年1月16日）は、日本の落語史に燦然と輝く名優です。本名小林七郎。独特の「江戸前」「粋」「いなせ」を体現した芸風で知られ、特に落語「芝浜」の名演は現在も語り継がれています。通称は「芝浜の三木助」、「田端の三木助」、「隼の七」などと呼ばれました。

複雑な出自と奔放な若年期

三木助の出自は謎に包まれています。床屋を営む家庭で育ちましたが、後に養子であったことを知ります。実父については諸説ありますが、近年の研究で2代目桂三木助との血縁関係は否定されています。本人は生前に出自について発言しており、幼少期は様々な経験を経て過ごしました。長女のブログによると、実父は華族の次男で、養子縁組の際に三木助は小林家に引き取られたとのことです。

師匠となるはずだった4代目春風亭柳枝の高齢により、その総領弟子である6代目春風亭柳橋に入門します。わずか2歳差の師弟関係でしたが、三木助は厳しい修行を積みました。しかし、若き日の三木助は放浪の生活を送り、大阪や名古屋を転々とした後、日本舞踊の花柳流の師匠となるなど、落語家としての道を一時的に離れていました。戦後には賭場通いを繰り返すなど、荒んだ生活を送っていました。

愛と芸への転機

転機となったのは、舞踊の弟子であった仲子との出会いでした。仲子の家族は、三木助が立派な芸人になれば結婚を許すと条件を出しました。このことが、三木助を大きく変えました。彼は賭博をやめ、落語家としての人生に真剣に取り組み、3代目桂三木助を襲名、仲子と結婚しました。以降、三木助の名跡は小林家で受け継がれることになります。

名人への道と「芝浜」

壮年になってから名人への道を歩み始めた三木助は、持ち前の芸の才能を開花させました。特に「芝浜」を得意とし、「芝浜の三木助」として広く知られるようになりました。彼の「芝浜」は構成力、写実力ともに優れ、現在も高く評価されています。8代目桂文楽の「芝浜」を参考に独自の解釈を加え、名作へと昇華させたエピソードも伝わっています。また、浪曲の鬼才2代目広沢菊春から「ねずみ」というネタを学び、落語界に紹介しました。

日本芸術協会脱退と落語協会移籍

長年日本芸術協会（現落語芸術協会）に所属していましたが、序列問題などのゴタゴタや8代目桂文楽への私淑から、1959年に脱退。フリーを経て1960年に落語協会に移籍しました。師匠である柳橋との不和も移籍の背景にあったとされます。移籍前に5代目柳家小さんと6代目三遊亭圓生を伴い新協会設立を画策していたこともありました。

死とその後

1961年1月16日、胃癌のため58歳で死去しました。惜しまれながら、彼の口演を記録した映像は現存していません。しかし、40演目46席分の録音は残されており、全集として市販されています。弟子たちには、それぞれの芸風を確立し、落語界で活躍する者も多数います。その中には、4代目と5代目桂三木助を襲名した者も含まれます。

人となり

三木助は、いびきや朝寝坊で有名でしたが、痩身であり、ラジオを常に持ち歩いていたという逸話が残っています。また、夢遊病のような症状があり、睡眠中に階段を駆け上がったり、刀（代わりに傘）で斬り合う真似をすることもあったようです。

エピソード

5代目柳家小さんとは義兄弟の契りを交わすほどの親友でした。長男には小さんの本名と同じ「盛夫」と名付けました。また、博打好きであったことから、博打にまつわる噺を得意としていました。甘党でもあったようです。死の際には、多くの仲間を枕元に呼びましたが、なかなか亡くならず、周囲を驚かせました。晩年の高座は、病を押して「三井の大黒」を演じ、その素晴らしい芸はレコード化されています。

影響と評価

落語評論家の安藤鶴夫は、三木助の芸を高く評価し、支援を続けました。しかし、安藤の攻撃的な評論スタイルは、三木助とその弟子たちに反感を買うこともありました。安藤の死後も、弟子たちはアンチの存在に悩まされたようです。

三代目桂三木助は、複雑な人生と類まれな芸の才能で落語史に名を刻んだ人物です。「芝浜」を始めとする多くの名演は、今もなお多くの落語ファンを魅了し続けています。

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