桐工作

桐工作（きりこうさく）および宋子良工作（そうしりょうこうさく）について

桐工作は、日中戦争の打開を目指して1939年12月に開始された秘密の和平工作です。日本の大日本帝国陸軍に所属する今井武夫大佐が中心となり進められました。この工作は、1940年9月に中止されましたが、その過程は歴史的に重要な意味を持ちます。

桐工作という名称は、これまでの対中和平工作に植物名が冠されていたことや、中国のことわざ「鳳凰は桐の木にとまる」に由来する説があります。歴史研究者の松崎昭一は、両方の理由が含まれていると考えています。

1. 内部背景と汪兆銘工作

日中戦争は1937年7月の盧溝橋事件をきっかけに始まり、徹底抗戦を貫く蔣介石と、和平を求める汪兆銘という2つの立場が存在しました。汪兆銘は、多くの民間人が戦争で被害を受けていることを憂いていました。彼は反共親日派として日本との和平を目指し、和平グループの中心人物となりました。

しかし、日本陸軍が進めた汪兆銘工作は、汪の地盤とされる東南諸軍から支持を受けることができず、最終的には汪の政権を日本軍占領下に樹立する方向へと転換しました。この工作は、汪兆銘と蔣介石の両政府を結ぶモデルケースを作ろうとしたものでした。しかし、汪兆銘は新政府の設立について、自身が権力を持つことに執着しない意向を示す一方で、中国の分裂を望んでいないことを強調しました。

2. 宋子良との接触

今井武夫は、汪兆銘政権樹立を試みながら蔣介石との和平を最終目的と考え、1939年12月に蔣介石夫人の弟である宋子良との非公式な接触を開始しました。1940年には、公式会議の前提として、非公式な使節間の予備会談を持つことに決定しましたが、この会談は香港で開始されました。ここで、両政府の合作を日本が仲介することが提案されました。

しかし、会談は満洲国承認問題によって紛糾し、再び会談が廈門で行われましたが、宋子良の提案は蔣介石の関与が難しいというものでした。最終的な回答として、重慶政府は日本の介入を拒否し、近衛声明の撤回を要求しました。

さらに、この時期に日本側の宋子良とされる人物が実は中国の特務機関員であったとして、工作の真意が疑われる事態が発生しました。これは、重慶政府が汪兆銘政権への混乱を招くための策略と考えられています。これらの過程を経て、1940年9月27日、桐工作は中止に追い込まれました。

3. 中止後の影響とその後の状況

桐工作は終了した後も、日中間での和平条件が検討されましたが、蔣介石は日本軍の本土駐屯に強く反対し、一方で日本側も無条件撤退には異議を唱えました。1941年には、日本の南部仏領インドシナ進駐を背景に、アメリカとの対立が激化し、最終的に日米開戦に至りました。

桐工作が失敗したことで、帝国陸軍は中国本土への駐兵を続ける決断をしますが、これが真珠湾攻撃へとつながる結果となりました。日本にとって、中国の共産化や対米戦争は避けるべき事態であり、その防止策を模索するうちに、逆に戦争を招くことになってしまったのです。これらの歴史的な流れは、極秘外交の試みが戦争の運命を大きく左右することを示しています。

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