桑 (松型駆逐艦)

駆逐艦「桑」：レイテ沖海戦とオルモック湾の戦い

はじめに

「桑」は大日本帝国海軍の駆逐艦で、松型駆逐艦（丁型）の5番艦です。艦名は、かつて存在した楢型駆逐艦の2番艦に続き、2代目となります。1944年7月25日、藤永田造船所で竣工しました。

艦の建造と初期の活動

「桑」は1943年12月20日に藤永田造船所で起工、1944年4月5日に命名されました。同年5月25日に進水し、竣工後は訓練部隊である第十一水雷戦隊に所属、瀬戸内海で訓練を行いました。8月3日から30日にかけては、同戦隊の旗艦を務めました。この間、「桑」は第二遊撃部隊に編入され、他の艦艇とともに訓練を実施しました。訓練には、扶桑型戦艦、航空戦艦「伊勢」「日向」、そして多くの駆逐艦が参加していました。

レイテ沖海戦

10月4日、「桑」は第三十一戦隊を基幹とする敵潜水艦掃蕩部隊に編入されました。しかし、10月17日にアメリカ軍がレイテ島に上陸、日本軍は捷一号作戦を発動します。「桑」は小沢機動部隊に編入され、レイテ沖海戦に参加しました。

10月25日、エンガノ岬沖海戦において、空母「瑞鳳」が撃沈されました。「桑」は、沈没した「瑞鳳」から847名もの生存者を救助するという偉業を成し遂げました。その後、さらに救助活動に従事しましたが、アメリカ海軍の攻撃を受け、退避しました。

フィリピン方面への展開と多号作戦

11月上旬、「桑」は第四航空戦隊を護衛してフィリピン方面に進出しました。馬公、南沙諸島を経由し、11月15日には新編された第52駆逐隊に所属しました。

12月2日深夜、姉妹艦「竹」と輸送艦3隻と共に多号作戦（第七次作戦）に参加しました。日付変更後の12月3日未明、レイテ島オルモック湾でアメリカ軍の大型駆逐艦3隻と遭遇、交戦しました。この戦闘で「桑」は沈没し、山下正倫艦長以下約250名が戦死しました。

オルモック湾での海戦

オルモック湾での戦闘は、非常に短時間で決着しました。敵駆逐艦3隻は日本軍の雷撃を警戒し、横隊を組んで湾内に侵入してきました。「桑」は敵艦を発見すると、魚雷攻撃を行い、続いて砲戦を開始しました。しかし、激しい砲火を浴び、「桑」は大破、炎上し、艦尾から沈没しました。生存者の一部は「竹」や輸送艦によって救助されましたが、多くは戦死、または米軍やゲリラによって殺害されたと伝えられています。

発見された「桑」の残骸

2005年、オルモック湾の海底108メートル地点で、旧日本軍の艦艇とみられる残骸が発見されました。潜水調査の結果、残骸は「桑」であるとほぼ特定されています。この発見は、多くの犠牲者を出したレイテ沖海戦、そして「桑」の戦いを改めて世に知らしめることとなりました。

参考文献

本稿の作成にあたり、以下の文献を参照しました。

大内健二『航空戦艦「伊勢」「日向」』
片岡紀明「エンガノ岬沖の死闘―駆逐艦『槇』航海長・後藤英一郎」
岸見勇美『地獄のレイテ輸送作戦』
その他多数の文献、資料

結論

駆逐艦「桑」は、短いながらも激動の艦歴を歩み、レイテ沖海戦での活躍と、オルモック湾での壮絶な最期は、太平洋戦争末期の日本海軍の悲劇を象徴するものです。本稿が、この忘れられた艦艇と、そこで戦った人々の記憶を呼び覚ます一助となれば幸いです。

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