桑原住雄

桑原住雄：戦後美術を彩った評論家の一生

桑原住雄（1924年7月15日 - 2007年12月15日）は、20世紀後半の日本美術界において、重要な役割を果たした美術評論家です。広島市に生まれた彼は、幼少期を台湾で過ごし、東京帝国大学に進学。三重海軍航空隊での経験を経て、広島で原爆被爆という大きな転機を経験しました。戦後、復学して美術史を専攻し、大学院を修了。その後は東京新聞社、朝日新聞社を経て、筑波大学、武蔵野美術大学の教授を務めました。

桑原の経歴は、単なる学究的なキャリアではありませんでした。美術記者として、戦後の日本の美術界を精力的に取材し、第一線で活躍する多くの芸術家と深く関わりを持ちました。その活動は、美術評論の枠を超え、美術館運営にも及びます。世田谷美術館開設準備委員など、数々の美術館の設立や運営に参画し、日本の美術文化の発展に貢献しました。

彼の活動は国内にとどまりませんでした。1960年代初頭には米国務省の招聘を受け、アメリカに渡り、アメリカ美術を紹介する先駆的な役割も担いました。この経験は、彼の視野を広げ、日本美術を国際的な文脈で捉える視点を養うことに繋がったと考えられます。

桑原の著作は多岐に渡り、日本の伝統美術から現代美術、そして西洋美術まで幅広く網羅しています。代表的な著作として、『東京美術散歩』（角川新書）、『日本の自画像』、そして『アメリカ絵画の系譜』（美術選書）などが挙げられます。これらの著作は、彼の鋭い洞察力と豊かな知識に基づいた、読み応えのある内容となっています。

特に『日本の自画像』は、日本美術の独自性を深く掘り下げた作品として高く評価されています。また、『アメリカ絵画の系譜』は、当時の日本ではまだあまり知られていなかったアメリカ美術を、体系的に紹介した画期的な作品でした。東山魁夷に関する著作も多数あり、その作品世界を詳細に分析した『東山魁夷の世界』（講談社文庫）は、広く読まれました。

さらに、桑原は翻訳活動にも積極的に取り組みました。バーバラ・ローズの『二十世紀アメリカ美術』、ハロルド・ローゼンバーグの『荒野は壷にのみこまれた』、そしてエイブラハム・A.デイビッドソンの『アメリカ美術の歴史』など、多くの重要な美術史論を日本語に翻訳することで、日本の美術界に大きな影響を与えました。これらの翻訳は、日本の美術研究者や愛好家に、当時の最先端の美術理論や思想に触れる機会を提供したと言えるでしょう。

1993年に脳出血で倒れ、療養生活を送るも、2007年12月15日に心不全のため逝去しました。しかし、彼の業績は、数々の著作や美術館運営への貢献を通して、日本の美術界に大きな足跡を残しています。戦後日本の美術史を語る上で、桑原住雄という名前は、決して無視できない存在です。彼の鋭い批評眼、多角的な視点、そして国際的な視野は、今後の美術研究にとっても貴重な財産となるでしょう。彼の残した著作は、これからも多くの読者によって読み継がれ、日本の美術文化の発展に貢献していくことでしょう。

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