桑原史成

桑原史成（くわばら しせい）

1936年、島根県に生まれた桑原史成は、日本の報道写真家として、特に水俣病の記録で知られています。東京農業大学と東京総合写真専門学校を卒業後、フリーの写真家としての道を歩み始めました。

水俣病との出会い

桑原が写真家として大きく飛躍するきっかけとなったのは、1960年に『週刊朝日』に掲載された水俣病の記事でした。この記事に衝撃を受けた桑原は、水俣病の実態を写真で記録することを決意。水俣市立病院の院長を紹介してもらい、水俣市での取材を開始します。当初は、写真家としての足がかりにしたいという思いもあった桑原ですが、水俣病患者の悲惨な状況を目の当たりにするにつれて、その意識は大きく変わっていきました。彼は患者たちの生活、苦しみ、そして社会の無関心を、カメラを通して世に訴えかけました。

水俣病の真実を追う

桑原は、水俣病の原因が新日本窒素肥料（現・チッソ）の工場廃液にあることを突き止めようと、精力的に活動しました。東大大学院生の宇井純と協力し、同工場の附属病院で、水俣病の原因物質に関する社内研究報告書を写真に収めることに成功。この写真は、水俣病の真相を明らかにする上で重要な証拠となりました。

写真展と受賞

1962年、桑原は初の個展「水俣病―工場廃液と沿岸漁民」を開催。この個展は、水俣病問題に対する社会の関心を高め、大きな反響を呼びました。その後も、「韓国」「ベトナム」「ロシア」など、国内外の様々な社会問題を取材。数々の写真展を開催し、多くの賞を受賞しました。2014年には、長年の活動が評価され、土門拳賞を受賞しました。

写真家としての姿勢

桑原の写真は、単なる記録写真ではありません。彼は、被写体となる人々の感情や社会の矛盾を、写真を通して表現することに力を注ぎました。彼の写真は、観る者に強い衝撃を与え、社会の不条理や人々の苦悩を深く考えさせる力を持っています。それは、写真を通して、人々の心に訴えかけるという、報道写真家の使命感に基づいた行動でした。

その後の活動

近年では、ユージン・スミスを題材にした映画『MINAMATA-ミナマタ-』の公開に合わせて、写真展「MINAMATA」を開催。初期の作品を中心に展示し、改めて水俣病問題への関心を呼び起こしました。

桑原史成は、その生涯を通して、社会の不条理にカメラを通して立ち向かい続けた報道写真家です。彼の作品は、時代を超えて、私たちに重要な問いを投げかけています。

主な受賞歴

1962年：日本写真批評家協会新人賞
1965年：講談社出写真賞
1971年：日本写真協会年度賞
1982年：伊奈信男賞
2006年：フォトシティさがみはら賞
2014年：土門拳賞

主な写真展

1962年：「水俣病―工場廃液と沿岸漁民」
1966年：「韓国民族分断の悲劇」
1979年：「ベトナム」
1982年：「ドキュメント水俣、韓国ベトナム」
1989年：「韓国激動の四半世紀」
1994年：「病める大国・ロシア」
2021年：「MINAMATA」

主な著作

『水俣病』
『水俣病1960～1970』
『生活者群像』
『水俣・韓国・ベトナム』
『高麗・李朝現代陶磁器撰』
『水保』
『韓国原影』
『陶磁の里‐高麗・李朝』
『写真で何ができるか』（共著）
『報道写真家』
『韓国真惜吐露』
『病める大国・ロシア』
『日本の公害』第2集・「水俣」
『報道写真に生きる』
『水俣の人びと』
『桑原史成全集』
『イムジンガン―垣間見た北朝鮮』
『写真集 水俣を見た7人の写真家たち』(共著)
『水俣事件 The MINAMATA Disaster 桑原史成写真集』
* 『水俣を忘れない (写真で読む)』

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