桜 (松型駆逐艦)

日本海軍駆逐艦『桜』：激動の艦歴

1944年、横須賀海軍工廠で建造された「桜」は、松型駆逐艦の13番艦であり、同名の駆逐艦としては2代目にあたります。竣工後、第十一水雷戦隊に配属され、東京湾での慣熟航海を経て瀬戸内海へ。その航海の途上では、昭和東南海地震による津波で発生した漂流物の回避など、いくつもの困難を経験しました。

瀬戸内海での訓練後、1945年2月には「楢」「椿」「欅」「橘」「柳」とともに第五十三駆逐隊を編成。同月、軽巡洋艦「鹿島」などとともに、基隆へ向かう輸送船団の護衛任務に就きました。この任務では、船団から分離し上海へ向かうなど、複数の航海に従事しています。

2月下旬には汕頭へ向かう輸送船団の護衛任務、3月には引き揚げ民を乗せた輸送船団の護衛任務と、次々と重要な任務をこなします。特に3月の任務では、輸送船に非常事態が発生した場合、船内にいる女性や子供たちを優先的に救助するという命令が下されていました。これらの任務は、敵の潜水艦や航空機の攻撃の危険性を常に伴うものでした。

4月からは第三十一戦隊の指揮下に入り、瀬戸内海で行動。しかし、沖縄戦が始まり、瀬戸内海には機雷が敷設されるなど、危険な状況に置かれるようになりました。5月下旬、舞鶴への移動が命令され、「桜」も舞鶴を目指します。しかし、航行中に機雷に触雷し、舵取機械の故障やモーター台座の破損などの被害を受けました。応急修理の後、呉海軍工廠で修理を行い、6月には大阪に到着しています。

7月、第五十三駆逐隊は解隊。 「桜」は連合艦隊付属となり、大阪湾における機雷監視任務に就きます。しかし、7月10日、アメリカ軍の接近が予想され、「桜」は他の艦艇とともに避難を開始。友ヶ島へ向かう途中、艦後部に触雷、爆発によって沈没しました。乗員の多くが亡くなりましたが、駆逐隊司令や艦長は奇跡的に生還しました。8月10日、「桜」は除籍されました。

「桜」の艦歴は、太平洋戦争末期の日本海軍の苦境と、その中で奮闘した乗組員の姿を如実に物語っています。数々の危険な任務を遂行し、最終的には戦火の犠牲となった「桜」の短いながらも激動に満ちた生涯は、歴史の重要な一部として記憶されています。

参考文献

雨倉孝之「松型駆逐艦長の奮戦記」『松型駆逐艦』学習研究社〈歴史群像 太平洋戦史シリーズ 43〉、2003年
財団法人海上労働協会 編『復刻版 日本商船隊戦時遭難史』財団法人海上労働協会/成山堂書店、2007年
片桐大自『聯合艦隊軍艦銘銘伝』光人社、1993年
桂理平『わが海戦記』霞出版社、1992年
駒宮真七郎『戦時輸送船団史』出版協同社、1987年
外山操『艦長たちの軍艦史』光人社、2005年
野間恒、山田廸生『日本の客船1』海人社〈世界の艦船別冊〉、1991年
松井邦夫『日本・油槽船列伝』成山堂書店、1995年
* アジア歴史資料センター（公式）（防衛省防衛研究所）

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