梅林寺 (対馬市)

梅林寺

長崎県対馬市の美津島町に静かに佇む梅林寺（ばいりんじ）は、曹洞宗に属する由緒ある寺院です。

歴史と由緒

寺に伝わる由緒によれば、梅林寺の起源は日本の仏教伝来と深く関わっています。西暦538年、朝鮮半島の百済から仏像と経巻を携えた使節団が対馬に滞在した際、これらを一時的に安置するため近くの浦に仮堂を設けたと伝えられています。その後、この仮堂が存在した場所に本格的な寺院が建立されたのが始まりとされており、その古い由緒から、寺号は不明ながら日本で最も古い寺院の一つに数えられることもあると言われています。

「梅林寺」という寺号が確認できるのは、室町時代の嘉吉年間、具体的には15世紀中葉のことです。長い歴史の中で、この名称で親しまれるようになりました。

伝わる文化財

梅林寺は、その長い歴史の中でいくつかの重要な文化財を今日に伝えています。

一つは「誕生仏」です。これは統一新羅時代の末期、およそ9世紀に作られたとされる銅製の仏像で、高さは10.6cmと小ぶりながら、その希少性と歴史的価値から対馬市の有形文化財に指定されています。釈迦が誕生した際に右手を天に、左手を地に向けて「天上天下唯我独尊」と語ったとされる姿を表しています。

もう一つは「大般若経」です。これは南北朝時代、14世紀に京都の東福寺版として刊行された経典で、総数は579帖にも及びます。仏教の智慧の教えが集約された膨大な経典群であり、その書物としての価値もさることながら、長い時代を経て伝えられてきた貴重な存在です。

記憶に残る事件

2014年11月24日、梅林寺は多くの人々の記憶に残る痛ましい事件の舞台となりました。寺の保管庫に侵入した何者かによって、前述の誕生仏と、大般若経のうち360巻が盗み出されたのです。これらの寺宝は合わせて約1億1千万円相当と評価されており、その損失は計り知れないものでした。

事件後、これらの文化財を韓国へ密輸しようとしたとして、後に韓国人の男5人が逮捕されました。取り調べに対し、逮捕された容疑者の一部は「対馬の仏像を盗む目的で来た」「日本の仏像は売れば金になる」といった趣旨の供述をしたと報じられ、その犯行動機が明確な金銭目的であったことが示唆されました。この供述は、文化財の窃盗が単なる盗難ではなく、国際的な文化財取引や組織的な犯罪とも関連しうる可能性を示唆するものでした。

しかし、盗み出された経典の一部は、保管庫に侵入するために使われたと見られるバールと一緒に、現場近くの藪の中に捨てられているのが発見されました。これは、犯人が全ての盗品を持ち去れなかったか、あるいは価値判断を誤った結果とも考えられますが、盗難された全ての文化財が無事に回収されたわけではなかったことを示しています。

この事件は、日本と朝鮮半島の間の文化財を巡る問題や、いわゆる「対馬仏像盗難事件」として広く報じられ、文化財保護のあり方や国際的な連携について改めて議論を呼ぶこととなりました。梅林寺が所蔵していたこれらの文化財は、対馬と朝鮮半島の歴史的な繋がりを示す貴重な証拠でもあり、事件はその絆に暗い影を落とす出来事となりました。

梅林寺は、その古くからの由緒と貴重な文化財を通じて対馬の歴史を今に伝える重要な存在であり、この事件は、地域社会や国境を越えて文化財をいかに守り、次世代に伝えていくべきかという課題を私たちに問い続けています。

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