森山風歩

森山 風歩（もりやま かざほ）

1981年2月24日生まれ、広島県広島市安佐南区出身。作家、モデル、タレントとして活動する傍ら、ファッションアパレルのセレクトショップを経営するなど、多角的な顔を持つ表現者です。進行性の難病である筋ジストロフィー（PMD）と、精神的な傷を抱える心的外傷後ストレス障害（複雑性PTSD）を患いながら、その困難な経験をもとにした独自の感性で作品を生み出し、多くの人々の共感を得ています。

幼少期から病との向き合い

森山氏の人生は幼少期から試練に満ちていました。小学3年生の頃に右腕の挙上に異変を感じ始めますが、周囲からは「怠けている」と誤解され、保護者である親からの虐待や、教員からの適切な理解を得られない環境で過ごしました。学校では同級生からのいじめにも頻繁に遭い、心身ともに孤立を深めていきます。中学2年生になり、ようやく医師によって筋ジストロフィーと診断されます。この時、「24歳までしか生きられない」という余命宣告も受けましたが、長年「怠けている」と責められ続けてきた身体の状態が、病気によるものであると証明されたことに、かえって安堵の涙を流したといいます。しかし、病名判明後も、全身の筋力低下により転倒しやすい森山氏に対し、母親からの暴行は続きました。

森山氏は、自身の努力では解決できない進行性の病や身体能力の制約に伴う物理的な問題に対し、必要なサポートが得られない状況に苦悩しました。そのため、病気であること自体を悲観したり哀れんだりする感情は、むしろ「贅沢なこと」だと感じていたと語っています。現在も病気自体を哀れむ気持ちはなく、ただ必要な介助や配慮のある環境を求めているといいます。

病名が判明したことで、歩行が困難になった際に使用できるよう、中学校の保健室に車椅子が用意されるなど、一定の理解は得られるようになります。

教育と自立への道

1996年に山陽女子高等学校（現 山陽学園高等学校）に入学。学校や外出時には車椅子を使用しましたが、自宅での生活には車椅子が与えられず、高校1年生の後半からは家の中での移動もままならない状態が続きました。この頃、両親の協議離婚が成立しています。1997年夏には40℃を超える高熱、痙攣、嘔吐が数ヶ月続き、衰弱して意識を失いかける状態に陥ります。しかし、母親は病院に連れて行かず、自身の死の恐怖を感じた森山氏は、どんな報復を受けようともと覚悟を決め、父親に連絡。岡山大学附属病院（現 岡山大学病院）に保護入院しました。

体調回復後、1997年9月に岡山県立岡山養護学校（現 岡山県立岡山支援学校）に転校し、1999年3月に卒業。同年4月には四国学院大学社会福祉学科に進学しますが、親からの仕送りがなくなり、学費未納により2001年に除籍となります。その後、岡山県に戻り、一人暮らしを始め、自立への道を歩み始めます。

表現者としての開花

自立後の2002年4月15日、華紗萌（かざほ）名義で初の著作「オシャレつぶ姫とモコモコうさぎ」を文芸社より刊行し、作家としての一歩を踏み出しました。2003年には作家の原田宗典氏と出会い、表現の世界での交流が深まります。2005年にはPMDの検査のために上京し、原田氏宅に滞在しながらアシスタントを務め、その後東京へ居を移しました。

上京後の2007年2月24日には、写真家・荒木経惟氏によるヌード撮影が行われ、同年5月25日には荒木氏の写真集「6×7反撃」の巻頭を飾る写真に採用されました。この写真集の出版パーティーがきっかけとなり、自叙伝執筆の話が進み、2008年2月24日に自叙伝「風歩」を講談社より刊行。同書の表紙と題字は荒木経惟氏が手掛けています。同年5月には荒木氏の写真集「空」にも写真が収録されました。

自叙伝「風歩」は大きな反響を呼び、2008年7月30日にはフジテレビ「スーパーニュース」で「自分らしく筋ジスと闘う27歳 壮絶半生の光と影」と題して特集され、2009年にはNHKワンセグドラマとしてドラマ化されました。

多様な活動と個性

作家活動のほか、モデル、タレントとしても積極的に活動しており、テレビ（フジテレビ「ザ・ノンフィクション」「ノンフィックス」、TBS「サンデージャポン」）、ラジオ、雑誌（サンデー毎日、BARFOUT!、POPEYEなど）に多数出演しています。また、文部科学省の事業で講演会に招かれるなど、自身の経験を語る機会も多くあります。トークショーやライブイベントも開催するなど、表現の場を広げています。

2001年からはファッションアパレルのセレクトショップ「K-retro Lady」を経営しており、自身のファッションセンスを活かした活動も行っています。ブログなどで発信するその独自の生き方やファッションは、特に女性からの支持を集めています。

ピンク色を好むなど、少女らしい一面を持ち、自宅の家具や家電にもその色が反映されています（現在は模様替えも検討中）。移動にはヤマハの電動車椅子を使用しており、こちらは友人によってピンク色にカラーリングされ、薔薇のペイントが施されています。右利きですが、病気の影響により両手が使えるよう訓練を重ね、現在は両利きです。チャームポイントは左胸の苺のタトゥーと大きな目。

食の好みは、「鮓・廣瀬」の寿司、納豆を入れたペヤング、肉全般。好きなゲームは逆転裁判シリーズ、逆転検事。尊敬する作家は三島由紀夫、江戸川乱歩。筋肉少女帯の大槻ケンヂからは影響を受けたと語っています。喫煙者であり、缶ピースを愛好しています。

自身のブログのプロフィールには障害のことは明記していません。これは障害を隠したいからではなく、「障害を商売にしたくない」という強い意志の表れです。障害を「売り」にすることもなく、あくまで自然体であることを重視しています。

ネコ王国という世界観

森山風歩の世界観を象徴するのが「ネコ王国」です。これは彼女の妄想から生まれた「自分の内面に出来たもう1つの世界」であり、自身にとっての「内面的現実世界」、あるいは自身の「自宅」を指す表現でもあります。ネコ王国について語られたのは、2011年のテレビ出演後のネットラジオがきっかけでした。小学3年生の頃に広島の原爆資料館を訪れ、人間が人間を傷つける惨さに衝撃を受けた経験が原点にあります。当時、学校の授業で描いた絵本「ネコ王国のはなし」には、人間が過ちを繰り返したために神によって人間砂漠と化し、その再生者として生まれたお姫様が、砂漠で過去の歴史を知りながら星を作り直す、というストーリーが描かれていました。彼女自身が「戦うお姫様」と表現したこの主人公は、森山氏自身と重なる存在です。

ネコ王国では、人間は森山風歩ただ一人です。他にクマ（男）、うさぎ（女）、そして星の天辺に神様が生息しています。ネコ王国の世界観では、かつて人間が生息していましたが、愚かな歴史を繰り返したため神に滅ぼされ、人間砂漠となりました。この砂漠に足を踏み入れると、人間の声や歴史を知ることができるとされています。

ネコ王国内の森山風歩は、人類を再び生息させ、同じ過ちを繰り返さない方法を探して旅をしています。彼女の魂はイチゴでできており、それをペンダントにして首から提げていますが、魂のイチゴは体調の良し悪しで変化するといいます。心の中には「モコモコうさぎ」が住んでおり、森山氏が負の感情を抱くと顔を出しますが、心の強さが勝っている時は森山氏の中で眠っています。

ファンからは「風歩にゃん」と呼ばれていますが、友人や編集者からは「姫」と呼ばれることが多いようです。自身を指すときは「私」「あたし」「森山」と使い分けています。また、「にゃんちゅ」を語尾に使うなど、独自の「ネコ王国語」も存在します（例：「おはにゃんちゅ」（おはよう）、 「ばいにゃんちゅ」（さようなら）、「にゃんちゅらん」（心が怒っている）など）。

主な作品

「オシャレつぶ姫とモコモコうさぎ」（2002年、文芸社）
「風歩」（2008年、講談社）
* 「乙女失格」（2012年、自費出版）

森山風歩は、その壮絶な経験や病、内面世界を隠すことなく、むしろそれを力に変えて多様な表現活動を続ける稀有な存在です。作家、モデル、タレント、経営者という肩書きを超え、独自の哲学と美意識で自己を確立し、人々に勇気と示唆を与え続けています。

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