森川許六

森川許六：俳諧と絵画の境を繋いだ蕉門十哲

森川許六（もりかわ きょりく、1656年-1715年）は、江戸時代中期を代表する俳人の一人です。近江国彦根藩に仕えた藩士であり、蕉門十哲に数えられる名高い俳諧師として知られています。しかし、その才能は俳諧に留まりません。武芸に秀で、絵画にも通じていた、まさに多才な人物だったのです。

藩士としての生涯と芭蕉との出会い

許六は、彦根藩士の子として生まれました。若き日は剣術、馬術、槍術を修め、特に宝蔵院流槍術では名人級の腕前だったと言われています。さらに、漢詩を学び、絵画では狩野安信に師事するなど、幅広い教養を身につけました。

俳諧への関わりは、当初、談林派の俳諧師に師事するところから始まりましたが、後に近江蕉門の古参である江左尚白に師事し、さらに江戸で宝井其角や服部嵐雪といった蕉門十哲の指導を受ける機会を得ます。そして、元禄5年（1692年）、深川に滞在中の松尾芭蕉に入門しました。

芭蕉との出会いは、許六の俳諧人生に大きな転機をもたらします。「十団子も小粒になりぬ秋の風」という句が高く評価され、師事期間はわずか10ヶ月足らずでしたが、芭蕉から俳諧の奥義を伝授されたと伝えられています。興味深いことに、許六は芭蕉に絵を教えたとも言われ、師弟間で互いに学び合う関係にあったことがうかがえます。

彦根における活躍と晩年

芭蕉との別れ後、許六は彦根に戻り、地元の俳諧界を牽引しました。芭蕉の門人である河野李由らとともに、俳書を共同編集するなど、活発な活動を展開しました。また、『風俗文選』、『十三歌仙』、『蕉風彦根躰』、『歴代滑稽伝』といった選集や作法書の編纂にも携わり、後進の指導にも力を注ぎました。直江木導、松居汶村、北山毛紈、寺島朱迪など、多くの弟子を育成しています。

晩年は癩病を患い、井伊家を辞し、家督を養子に譲ります。正徳5年（1715年）、59歳で生涯を閉じました。

多才な才能と多彩な作品

許六の作品は、その多才な才能を反映しています。『風俗文選』は、芭蕉の遺志を継ぐ最初の俳文集として知られ、芭蕉をはじめとする蕉門俳人の作品を収めた重要な文献です。許六自身による俳句も数多く残されており、自然の風景や人間の情趣を繊細に表現した作品が特徴です。

絵画作品としては、龍潭寺に残る襖絵や『奥の細道行脚之図』などが有名です。龍潭寺襖絵は、その規模と完成度の高さから注目を集めていますが、許六の作品と断定できるものについては議論の余地が残されています。

許六は、自ら「蕉門二世」を称するほど、芭蕉の俳諧を深く理解し、独自の境地を開拓した人物でした。芭蕉の教えを継承しつつも、独自の視点と表現方法で多くの作品を生み出し、江戸時代中期の俳壇に大きな足跡を残したのです。

まとめ

森川許六は、俳人としてだけでなく、武芸、絵画、文芸など多方面に才能を発揮した人物でした。芭蕉との師弟関係、そして彦根での活躍を通して、その多才な魅力と、後世への影響を改めて認識することができるでしょう。彼の残した作品群は、江戸時代中期の文化を知る上で貴重な資料であり、現在も多くの研究者や愛好家によって高く評価されています。その生涯は、まさに「文武両道」という言葉がふさわしい、時代を彩った稀有な存在だったと言えるでしょう。

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