森戸・稲村論争

森戸・稲村論争

森戸・稲村論争は、1949年に開催された日本社会党の第4回党大会における、運動方針を巡る党内の激しい対立を指します。この対立は、社会党の右派である森戸辰男と左派の稲村順三がそれぞれ独自の案を提案したことから始まりました。懸念されていたのは、党のしがいをいかにして定義するかということと、その結果として未来の政治的路線にどのように影響を与えるかという二つの側面でした。

党の性格に関する森戸の案は、国民に支持される政党であり続けることを重視し、議会主義の原則に従いながら反共産主義を強調するものでした。この考え方は、社会党が広範な支持を得て、与党として政治に参加するための戦略的アプローチです。

一方、稲村の案は、より急進的な視点を持っていました。彼の視点では、党は「階級政党」として自身を位置付け、革命を通じて社会制度の根本的な変更を目指すべきであり、時には日本共産党との協力さえも辞さない姿勢を示していました。このように、彼は社会党が持つべき役割を、単なる議会内の活動に留まらないものとしたのです。

この対立は、片山内閣や芦田内閣の評価にも関連しており、過去の政府が遂行してきた政策が今後の社会党の方向性にどのように影響を与えるかという点でも重要な意味を持ちました。つまり、どのようにして社会主義的な政策を実行に移していくのかが、論争の中心的な焦点となったのです。

最終的には、勝間田清一の調停により、運動方針は「労働階級を中核とする農民、中小企業者並みに知識層などの広範な勤労大衆の民主的組織体たる政党」と定義されることとなりました。この結論は、森戸案の国民政党の性格よりも、稲村案に近い左派的な色彩を強めるものでありました。さらに、書記長のポジションでも、右派の浅沼稲次郎が退き、左派の鈴木茂三郎が新たに就任することとなり、この転換は2年後の左右分裂の予兆となりました。

第4回大会以降、日本社会党は1986年の「日本社会党の新宣言」まで基本的に左派優位が続いたと言われています。この状況を受けて、一部の研究者は日本社会党のこの傾向を「日本型社会民主主義」と位置付けていることもあります。

以上のように、森戸・稲村論争は日本社会党のその後の歴史に大きな影響を与える路線論争の原型となり、勝間田の調停がもたらした「階級的大衆政党」という概念は、後の社会党文書に影響を与える重要な側面でした。この概念が党の文書に明記されたのは、左社綱領の策定後のことになります。

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