森本弘策

森本 弘策

森本 弘策（もりもと こうさく）は、日本の歴史において激動の時代であった幕末から、近代国家への道を歩み始めた明治時代にかけて活躍した人物である。彼は旧幕府の臣としての武士でありながら、時代の変遷を経て新政府の官僚としてもその経歴を重ねた。彼の生涯で特に知られているのは、箱館戦争における軍艦座礁とその後の出来事である。

蝦夷共和国での活動

徳川幕府が崩壊し、戊辰戦争が終結に向かう中で、旧幕臣たちの多くは蝦夷地へと渡り、独自の政権、いわゆる「蝦夷共和国」を樹立した。森本弘策もその一人であり、この蝦夷共和国において重要な役割を担った。彼は、同政権が擁した軍艦の一隻である「千代田形」の艦長に任じられた。千代田形は、かつて江戸幕府が保有していた蒸気軍艦であり、蝦夷共和国の海上勢力の中核を成す艦艇の一つであった。森本は艦長として、蝦夷地を舞台とした戦局において、この艦を指揮した。

箱館戦争における試練

明治2年（1869年）、新政府軍と蝦夷共和国軍との間で繰り広げられた箱館戦争は、最終局面を迎えつつあった。この年の4月29日の夜、森本弘策が指揮する千代田形は、榎本武揚を総裁とする旧幕府艦隊の一部として、函館湾の防衛任務に就いていた。新政府軍の攻撃に備え、湾内の守りを固める緊張した状況下で、千代田形は不幸にも座礁してしまう。具体的な場所は、弁天台場の近辺であったと記録されている。

座礁によって航行不能となった千代田形は、深刻な危機に瀕した。森本弘策は、この絶望的な状況の中で、苦渋の決断を下すことになる。それは、艦の放棄であった。しかし、艦と共に戦うことを望む者や、挽回を期す者もいたのだろう、彼の決定に対して乗員たちからは強い反対の声が上がったとされている。それでも森本は、自身の判断を貫き、乗員たちの反対を押し切って艦の放棄を断行した。そして、全乗員に艦からの退去を命じた。

ところが、乗員たちが退艦して無人となった後、事態は予期せぬ展開を見せる。潮が満ちて水位が上昇したことにより、座礁していた千代田形が自然と離礁したのである。皮肉なことに、無人となった艦は漂流し、そのまま新政府軍によってやすやすと捕獲されてしまった。この事態は、旧幕府軍にとって看過できない失態であり、その責任は艦長であった森本弘策に帰せられた。榎本武揚は、この千代田形捕獲の責任を問い、森本弘策に対して艦長職を解き、一兵卒へと降格するという、極めて厳しい処分を下したのである。これは、当時の旧幕府軍が置かれていた状況と、規律の厳しさを示す一幕であった。

明治期における活動

箱館戦争が終結し、武士の時代が終わりを告げると、森本弘策は新たな時代に適応し、明治政府のもとで官僚としての道を歩み始めた。彼の海事に関する知識や経験は、新時代の日本において必要とされたのである。彼はまず、開拓使に付属する船舶の船長として勤務した。開拓使は、北海道の開発を進めるために設けられた官庁であり、その活動には海運が不可欠であった。森本は、「雷電丸」や「函館丸」といった開拓使所属の船の指揮を執り、資材や人員の輸送、調査活動などに貢献したと考えられる。

さらに、森本弘策は海員審判官という役職も務めた。海員審判官は、船舶事故や海上で発生した諸問題について、事実関係を調査し、責任を判定する役割を担っていた。これは、明治政府が近代的な海事法制や安全基準を整備していく中で生まれた職務であり、森本が海事分野の専門家として、公正な判断を下す能力を認められていたことを示唆している。

まとめ

森本弘策の生涯は、幕末の激動期から明治という新たな時代への転換期を生きた人々の姿を映し出している。旧幕臣として戦場に立ち、箱館戦争での失態によって厳しい処分も経験したが、その後は新政府のもとで海事分野の官僚として日本近代化の一端を担った。彼の歩みは、時代の大きな変化の中で、自身の経験と能力を活かし、新たな場所で職務を全うしようとした一人の人物の記録であると言えるだろう。

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