森田一踏

森田一踏

森田一踏（もりた いっとう）は、日本の舞踏家であり、「暗黒舞踏家」という肩書を名乗っています。本名を葛西俊治といい、舞台上での身体表現に加えて、心理学者として心身の探求にも深く関わる、多方面にわたる活動を展開しています。

舞踏との出会いと活動の始まり

森田氏が舞踏の世界に足を踏み入れるきっかけとなったのは、小樽の万象館で開催された、舞踏家・蝉丸氏による舞踏ワークショップに参加したことでした。この経験を通じて、身体を用いた表現の奥深さに強く惹かれ、舞踏への道に進むことを決意します。

1988年から本格的に舞踏活動を開始。初期には、小樽を拠点に活動していた舞踏グループ「古舞族アルタイ」に所属し、研鑽を積みました。「古舞族アルタイ」は、かつて存在した「北方舞踏派」から派生したグループであり、森田氏の舞踏家としての出発点が、日本の舞踏史における一つの系譜と繋がっていることを示しています。

舞踏集団「偶成天」の主宰

1996年、森田一踏は自らの活動の場を広げるため、札幌市を拠点とする舞踏集団「偶成天（ぐうせいてん）」を設立し、その主宰者となります。「偶成天」は、森田氏の独自の舞踏観に基づいた創作活動を展開するグループとして、国内外で公演を行うなど精力的に活動しています。札幌を拠点とすることで、日本の舞踏の中心地とは異なる独自の表現世界を追求しています。

心理学者としての活動とダンスセラピー

森田一踏の活動は、舞台上での舞踏表現に留まりません。彼は心理学者としての側面も持ち合わせており、舞踏家としての視点を生かした実践を行っています。

1999年からは、札幌市内の精神科デイケア施設において、「ダンスセラピー」の指導に携わっています。ダンスセラピーは、身体の動きやダンスを通じて心身の状態を探求し、自己理解を深めたり、精神的な回復を促したりする心理療法の一種です。森田氏は、自身の舞踏実践で培った身体への深い洞察を、このセラピーに応用しています。

さらに、身体と精神の相互関係に関する学術的な探求も行っており、身体心理学の分野で多数の研究論文を発表しています。自身の舞踏とセラピーの実践を理論的に考察した研究は、専門家の間でも注目されており、特に「セラピーとしてのButohダンス」と題された論文は、日本ダンスセラピー協会のニュースレターに掲載され、舞踏が持つセラピーとしての可能性を学術的に提唱しました。

舞踏と心理の融合

森田一踏の活動の最大の特徴は、舞踏という身体表現と心理学、特に身体心理学やダンスセラピーといった分野を深く融合させている点にあります。単なる舞台芸術家としてだけでなく、身体を通じた人間の内面への探求者として、また、その探求の成果を他者の心身の回復や成長に役立てようとする実践者としての顔も持っています。

暗黒舞踏は、土方巽や大野一雄といった先駆者たちによって切り拓かれた、既存の舞踊概念にとらわれない、人間の根源的な部分や身体の持つ可能性を追求する表現形式です。森田氏もまた、「暗黒舞踏家」としてその系譜に連なりながらも、心理学やセラピーという異なる視点を取り入れることで、舞踏の新たな可能性を切り拓こうとしています。その活動は、舞踏が単なる芸術表現に留まらず、人間の生そのものに深く関わるものであることを示唆しています。

彼の活動は、札幌という地から発信されつつ、舞踏と心身探求という普遍的なテーマを通じて、多くの人々に影響を与えています。

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