大野一雄

大野一雄：魂の舞踏を追求した不屈の表現者

大野一雄（1906年 10月27日 - 2010年 6月1日）は、日本の舞踏界に大きな足跡を残した舞踏家です。北海道函館市に生まれ、その生涯を通じて、独自の舞踊表現を追求しました。モダンダンサー、マイム師、教育者としても活動し、国内外で多くの人々に影響を与えました。

生い立ちと初期の活動

1906年、函館の網元の家に生まれた大野は、ロシア正教会の幼稚園に通い、国際色豊かな環境で育ちました。旧制函館中学校から秋田県の大館中学校へ編入し、陸上部で活躍するなど、運動神経も抜群でした。その後、日本体育会体操学校に進学しますが、徴兵により一時中断。この軍隊経験が、後の彼の舞踊に影響を与えたとも言われています。

舞踊家への転身

スペイン舞踏家ラ・アルヘンティーナの来日公演を観たことがきっかけで、大野は舞踊の道へ進むことを決意します。体育教師をしながら、石井漠舞踊研究所で学び、ドイツ人舞踏家ハラルド・クロイツベルクにも師事しました。さらに、江口隆哉と宮操子の舞踊研究所でも研鑽を積み、自身の舞踊スタイルを確立していきます。

戦後の活動と独自の舞踏

太平洋戦争に従軍し、復員後は江口隆哉・宮操子舞踊研究所で活動を再開。1949年には自身の舞踊研究所を設立し、独立した舞踊家としての活動を始めました。この頃から、彼は独自の舞踏表現を模索し始め、内面から湧き出る感情を身体で表現するスタイルを確立しました。土方巽との出会いは、彼の舞踊をさらに進化させる大きな転機となりました。特に、1977年に土方巽演出で発表されたソロ作品「ラ・アルヘンチーナ頌」は、大野の名を国内外に知らしめるきっかけとなりました。

海外での活躍と国際的な評価

1980年代に入ると、大野は海外での活動を本格化させます。ナンシー国際演劇祭での公演を皮切りに、ヨーロッパ各地の演劇祭で高い評価を得ました。彼の舞踊は言葉を超えて観客の心に響き、その独特な表現は多くの芸術家に影響を与えました。ボローニャ大学には大野一雄研究室も開設され、その舞踊は学術的にも研究されています。

代表作とその特徴

大野の代表作には、「ラ・アルヘンチーナ頌」の他、「わたしのお母さん」「死海」「睡蓮」などがあります。これらの作品は、彼の内面世界を深く掘り下げ、人間の根源的な感情や存在の意味を問いかけるものでした。彼の舞踊は、感情の起伏を繊細に表現し、観る者に深い感動と共感を呼び起こします。

晩年と遺産

100歳を超えても舞台に立ち続けた大野は、晩年アルツハイマー型認知症と闘いながらも、表現者としての情熱を失うことはありませんでした。車椅子に乗ったまま手で踊りを表現するなど、その姿は多くの人々に勇気を与えました。上杉満代、ヨネヤマママコ、笠井叡など、多くの門下生を育て、その舞踊の精神は次世代へと受け継がれています。

大野一雄の舞踊は、単なるパフォーマンスではなく、彼の生き方そのものでした。彼は、肉体を通して人間の魂を表現し、観る者の心に深く刻まれる作品を生み出し続けました。その芸術は、これからも多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けることでしょう。

主な公演

1949年から2000年以降まで、数多くの公演を行いました。以下に代表的なものを記載します。

1949年：「大野一雄現代舞踊第一回公演」
1959年：「大野一雄モダンダンス公演」『老人と海』
1977年：「ラ・アルヘンチーナ頌」
1981年：「わたしのお母さん」
1985年：「死海　ウインナー・ワルツと幽霊」
1987年：「睡蓮」

その他、多数の国内外での公演があります。

映像作品

数多くの映像作品にも出演し、その姿を記録に残しました。

1969年：「O氏の肖像」（長野千秋監督）
1995年：「KAZUO OHNO」（ダニエル・シュミット監督）
2005年：「大野一雄ひとりごとのように」（大浦信行監督）

著書・写真集

自身の舞踊哲学や生涯をまとめた著書、写真集も発表しました。

『わたしの舞踏の命』
『舞踏譜　御殿、空を飛ぶ』
『胡蝶の夢　舞踏家・大野一雄　細江英公人間写真集』
『大野一雄　百年の舞踏』

受賞歴

数々の賞を受賞し、その功績が広く認められました。

1993年：神奈川文化賞
1994年、1996年：舞踊批評家協会賞
1998年：日本文化デザイン賞
2001年：織部賞グランプリ
2002年：朝日舞台芸術賞特別賞