森田健 (ボクシング審判員)

森田 健（もりた けん）

1935年3月22日、群馬県高崎市に生まれた森田健氏は、日本の元プロボクサーであり、戦後日本のボクシング界において最も数多くの国際舞台で裁きを務めた審判員の一人です。その波乱に富んだキャリアは、リング上からジャッジ席、そして組織運営に至るまで多岐にわたります。

ボクサーとしての第一歩

ボクシングとの出会いは、地元の高崎拳闘道場でした。アマチュアボクサーとしてキャリアをスタートさせ、19勝4敗という好成績を残します。そして1959年、新和拳（現在の横浜光ボクシングジム）からプロの世界へ足を踏み入れました。フライ級で戦い、プロ戦績は13勝5敗3分の記録を残しています。プロ時代には、後に「カンムリワシ」として世界王者に輝くファイティング原田氏との対戦経験もありましたが、この一戦では敗北を喫しています。

審判員への転身と輝かしい実績

1960年にプロボクサーを引退した森田氏は、その後、インドネシア大使館に勤務するという異色の経歴を経て、1964年に29歳でボクシング審判員への道を歩み始めます。同年にはジャッジとして、そして1967年からはレフェリーとしてもデビューしました。ここから始まる審判員としてのキャリアは、日本のボクシング史における金字塔となります。

実に41年間に及ぶ審判員生活の中で、森田氏が担当した試合数は通算3万試合に上り、さらに世界タイトルマッチは97試合という驚異的な数を記録しました。これらの数字は、いずれも日本人審判員としては歴代最多であり、その実績がいかに突出していたかを物語っています。

特に重要なキャリアの一つとして、1981年にアメリカで行われたWBA世界ウェルター級王者トーマス・ハーンズ選手の防衛戦でレフェリーを務めたことが挙げられます。森田氏にとって初めてアメリカのリングでの担当となったこの試合での、極めて的確かつ公平なレフェリングは、国際的に高く評価されました。この経験が、以降、数多くの世界タイトルマッチを担当する重要な転機となったと、氏自身が語っています。

国内外の注目を集めたビッグマッチでもその姿が見られました。1994年の薬師寺保栄選手と辰吉丈一郎選手による歴史的なWBC・WBA世界バンタム級王座統一戦ではジャッジとして参加。また、1992年の鬼塚勝也選手のWBC世界スーパーフライ級初防衛戦、そして1998年の飯田覚士選手と井岡弘樹選手によるWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチではレフェリーを務めるなど、日本のボクシング史に残る名勝負の数々をリングサイドで見守り、あるいは裁きました。

ビジネスとボクシング界への貢献

審判員としての活動と並行して、森田氏は1981年に人材派遣会社を設立し、経営者としても手腕を発揮しました。自身が経営者となることで、多忙な審判活動を優先するための時間を確保するという、ボクシングへの深い情熱ゆえの選択でした。

長年の貢献は、業界からも高く評価されました。2004年には年間表彰で特別賞を受賞。さらに、2017年には協会功労賞を受賞するなど、その功績は公式に称えられています。

晩年とボクシング界での役割

2005年、70歳という節目で、41年間に及んだ審判員としてのキャリアに終止符を打ちました。審判員引退後も、ボクシング界との関わりは続きます。日本ボクシングコミッション（JBC）の審判委員長として後進の指導にあたる一方、設立した人材派遣会社の経営も継続しました。

さらに、2011年にはJBCの事務局長に就任し、組織運営の中心的な役割を担いました。2015年2月に事務局長を辞任した後も、JBC顧問として引き続きボクシング界の発展に貢献しています。

プロボクサーとしての経験、そして国際的な舞台で高く評価された審判員としての実績を通じて、森田健氏は日本のボクシング界において極めて重要な足跡を残しました。その情熱と献身は、多くの関係者にとって模範であり続けています。

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