森雞二

森雞二九段：晩成の天才棋士とその波瀾万丈な人生

森雞二九段（1946年4月6日 - 2017年5月10日）は、日本の将棋界に名を刻んだ稀代の棋士です。16歳という遅咲きのスタートながら、並外れた才能と努力で数々のタイトルを獲得し、その個性的な棋風と行動で多くのファンを魅了しました。彼の生涯は、まさに波乱万丈という言葉がぴったりのドラマチックなものでした。

晩学の天才

高知県中村市（現四万十市）出身の森九段は、大阪で幼少期を過ごした後、中学2年生で母親と共に上京します。将棋を始めたのは16歳と遅く、近所の将棋クラブに通い詰める日々を送りました。夕食抜きで夜11時まで将棋を指し続けたというエピソードは、彼の並々ならぬ情熱を物語っています。わずか半年でアマ三段の実力に到達したその才能は、周囲を驚かせました。そして、道場の師範である大友昇氏から奨励会受験を反対されたにも関わらず、自身はプロになるつもりはないと主張して受験。試験では不合格でしたが、記録係として奨励会入りを果たします。これは、戦後では類を見ないほどの「晩学」からの成功事例であり、後世の棋士たちに大きな影響を与えました。

強気な挑戦者

1978年、第36期名人戦では中原誠名人に挑戦。対局前に突然剃髪して現れた姿は、関係者のみならず、NHKで放送された特集番組を通して日本中に衝撃を与えました。結果的には敗れましたが、その強気な姿勢は、森九段の勝負師としてのメンタリティを表しています。彼は「中原は強くない、負ける人はみんな勝手に転んでいるんだ」、「名人になったら土佐に帰る、指してほしい者は土佐に来ればいい」と発言し、周囲を驚かせました。

1982年には棋聖位を獲得。しかし、その直前にアマチュア棋士との三番勝負で全敗を喫し、日本将棋連盟に衝撃を与えました。この一件について、大山康晴会長は森九段を厳しく叱責したと伝えられていましたが、森九段自身は、大山会長から温かい励ましを受けたことを証言しています。

1988年には王位戦で谷川浩司王位を破り、王位を獲得。挑戦者として臨んだ際には「身体で覚えた将棋を教えてやる」と発言し、谷川王位を挑発しました。この発言は大きな話題となり、森九段の個性的なキャラクターが広く知られることとなりました。

1995年の王座戦では羽生善治名人（当時）に挑戦。惜しくも敗れましたが、「魔術師が逆に魔術（羽生マジック）にやられた」という言葉を残し、その敗北を潔く受け止めました。昭和20年代以前に生まれた棋士がタイトル戦に出場したのは、これが最後となりました。

終盤の魔術師

森九段は、その卓越した終盤力から「終盤の魔術師」と呼ばれていました。彼の終盤戦術は、多くの棋士にとって脅威であり、多くの名局を生み出しました。

将棋以外の実力

将棋以外にも、ギャンブルや麻雀をこよなく愛し、麻雀大会での優勝経験もあるほどの実力者でした。作家阿佐田哲也氏とも交流があり、バックギャモンなども得意としていました。

弟子と後世への影響

森九段には、女流棋士の里見香奈氏がおり、里見氏の得意戦法である中飛車は、森九段の得意戦法でもあります。先崎学八段は十代の頃、森九段の将棋に心酔し、多くの棋譜を研究したと語っています。

引退とその後

2017年、順位戦C級2組で降級点の累積により引退。59歳という年齢で順位戦B級1組に昇級した際には大きな話題となりましたが、1期で全敗という結果に終わりました。しかし、彼の将棋人生は、多くの人々に勇気と感動を与え続けました。晩学の天才棋士、森雞二九段の生涯は、将棋界の歴史に燦然と輝く一頁として刻まれています。

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