楊乃武と小白菜

楊乃武と小白菜事件：清朝末期を揺るがした冤罪事件

「楊乃武と小白菜」事件は、清朝末期に発生した冤罪事件であり、その悲劇的な内容から清末四大奇案の一つに数えられています。この事件は、楊乃武と畢秀姑（通称：小白菜）が、姦通と夫殺害の疑いをかけられたことから始まり、当時の官僚たちの腐敗や権力闘争が絡み合い、複雑な様相を呈しました。

事件の経緯

事件の中心人物である楊乃武は、浙江省杭州府余杭県の出身で、代々養蚕業を営む家庭に生まれました。彼は学識があり、挙人の位を持っていました。一方、畢秀姑は葛家の童養媳（幼い頃から養子として迎えられた嫁）で、その美貌から「小白菜」と呼ばれていました。楊乃武は小白菜に字を教えており、二人の親密な関係が「羊（楊）が白菜を食う」という噂を生み、事件の背景となります。

1873年、小白菜の夫である葛品連が病死。検死の結果、ヒ素による毒殺と断定されました。これにより、地元知県の劉錫彤は、楊乃武と小白菜が共謀して葛品連を殺害したと疑い、楊乃武を拷問にかけました。しかし、楊乃武は自白を拒否。劉錫彤は報告書を改竄し、楊乃武を犯人にするため、さらに事件を捏造しました。

杭州府の知府である陳魯も拷問を加え、ついに楊乃武は虚偽の自白を強要されます。その結果、楊乃武は斬罪、小白菜は凌遅刑という重い刑罰が宣告されることになりました。この判決に対し、楊家は不服として抗議しますが、事態はさらに悪化していきます。

冤罪を晴らすための戦い

楊家の抗議は、楊乃武の姉である楊淑英（菊貞）の尽力により、中央に届きます。楊淑英は、かつて刑部右侍郎の夏同善の家で働いていたことがあり、彼を通じて、事件は軍機大臣の翁同龢の耳にも入りました。翁同龢らは、事件が冤罪である可能性を疑い、西太后に再審を求めました。

西太后の命により、浙江巡撫の楊昌濬が再審を担当することになりますが、彼は面子を保つために、楊乃武と小白菜が姦通し、毒殺したという従来の主張を繰り返しました。さらに、朝廷は浙江学政の胡瑞瀾を派遣しますが、彼は賄賂を受け取り、拷問によって虚偽の自白を強要しました。小白菜は乳首に銅線を通されるという残虐な拷問を受け、再び楊乃武にそそのかされて殺害したと自供してしまいます。

しかし、監察御史の辺宝泉が胡瑞瀾の審判を弾劾し、事件は再び転機を迎えます。楊淑英と楊乃武の妻である詹彩鳳は、北京に赴き、浙江籍の官僚たちに無実を訴え、夏同善と王昕も楊乃武の無実を上奏しました。

真実の解明と事件の終結

1876年、刑部尚書の桑春栄が自ら審理にあたり、葛品連の棺を開けて再検死を行いました。その結果、毒殺ではなく病死であることが判明。これにより、事件は冤罪であることが証明され、翌年2月、楊乃武と小白菜は釈放されました。しかし、獄中での拷問で二人は心身に深い傷を負い、名誉回復も果たされませんでした。

事件の影響とその後

この事件は、当時の官僚たちの腐敗と権力闘争を浮き彫りにしました。有罪を主張した胡瑞瀾や楊昌濬は、左宗棠率いる湘軍出身の「両湖派」であり、彼らに疑義を挟んだ翁同龢や夏同善は、江蘇省・浙江省出身の「江浙派」でした。事件は、両派の政争の様相を呈し、最終的に冤罪が証明されたことで、「両湖派」は大きな打撃を受けました。

楊乃武は釈放後、養蚕業で生計を立て、1914年に病死。小白菜は出家し、尼僧として余生を送り、1930年に亡くなりました。

この事件は、清朝末期の腐敗した司法制度を象徴する出来事として、後世に語り継がれています。また、この事件は、映画やテレビドラマとしても繰り返し映像化され、多くの人々に知られています。

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