楊増新

楊 増新（よう ぞうしん）

楊増新は、19世紀末から20世紀初頭にかけて中華民国期の新疆で活躍した政治家である。彼は1889年に進士に合格した後、甘粛省の河州知州としてムスリム問題の解決に尽力した。彼の名声は新疆布政使王樹楠の推薦により高まり、新疆の陸軍学堂の総弁に任命され、アクス、ウルムチ、バルクルなど多くの地方長官を歴任した。

新疆の統一に向けた歩み

楊は1911年に辛亥革命が発生すると、新疆でも革命派の動きが活発化し、特に漢人の間で革命思想が急速に広まった。彼は新疆省長の袁大化に政治経験と軍事力を評価され、提刑按察司に任命されると、ムスリム兵士の訓練に従事した。袁大化が追放された後は、督軍としてハミのムスリム反乱や他の地域の反乱を鎮圧する役割を担った。

さらに、彼はイリの革命政府との和平交渉を行い、巧妙にイリ政権を取り込むことで新疆の実権を掌握。1928年には南京国民政府から新疆省長に任命され、事実上独裁的に新疆を統治した。同時に反対派の弾圧を行いながら、清朝の統治制度を維持し、新疆に政治的安定をもたらすことに成功した。

外交政策と内政政策

新疆は清朝時代からイギリスとロシアの間での戦略的な舞台であったが、楊増新が統治を行っている間、中国は内乱状態にあった。これにより、彼は独自の判断で英露両国と外交交渉を進めた。具体的には、ロシア国境の華僑保護権や商人の納税問題等に関して中国の権益を確保し、ロシア革命後には通商条約の平等化を要求。また、イギリスにも最恵国待遇の廃止を求めるなど、巧みな外交戦略を展開した。

内政では「無為而治」の原則のもと、賄賂排除や官僚機構の統制を実施し、財政改革に取り組んだ。彼はカザフ人部族長に清朝の称号を与え、彼らを懐柔しつつ、少数民族間での相互の牽制を利用して反乱を防ごうとした。さらに、外来宗教の影響を排除しつつ、伝統的なイスラームを尊重し、社会秩序の維持に努めた。

暗殺とその影響

しかし、1928年7月7日、楊増新は樊耀南、外交署長らによって暗殺された。樊耀南は後に逮捕、処刑され、金樹仁が後を継いで実権を握ることとなった。楊の暗殺には、樊耀南と金樹仁の共謀説や、ソビエトの干渉による新たな政権樹立を狙った説が存在し、その後の新疆の政治に大きな影響を与えた。

楊増新は、内政・外交において多方面での成果を上げながらも、独裁的な統治と反対派の弾圧により、その政治姿勢は評価が分かれる。しかし、彼の行動は新疆における政治的安定をもたらし、その後の地域の歴史に重要な影響を与えた。

もう一度検索