楊安児

楊安児（よう あんじ）

楊安児は、金朝末期に山東地方で紅襖軍を率いて蜂起した人物です。彼の生涯は、反乱と投降、そして再び反乱という激動に満ちています。

生涯

益都府益都県（現在の山東省一帯）出身の楊安児は、泰和年間に一度反乱を起こしましたが失敗し、金朝に降伏しました。その後、「必勝軍」と呼ばれる義勇軍の副官に任じられ、対モンゴル戦線に派遣されます。

しかし、野狐嶺の戦いでの金朝軍の大敗北を受けて、楊安児は山東地方に逃げ帰ります。大安3年（1211年）に再び金朝に背き、山東一帯で略奪を繰り返しました。

貞祐2年（1214年）4月、金朝とモンゴル軍の間に一時的な和議が成立すると、金朝は僕散安貞を益都府に派遣し、本格的に紅襖軍の討伐を開始しました。僕散安貞はまず益都城の東で楊安児を破りますが、楊安児は敗走した先で萊州の徐汝賢を降伏させ、再起を図ります。

さらに、登州刺史の耿格が自発的に降伏したことで、楊安児の勢力は拡大しました。楊安児はついに皇帝号を称し、「天順」と改元するに至ります。勢いに乗じた楊安児は、東では寧海州を陥落させ、西では濰州を攻めました。配下の元帥・方郭三は、密州を拠点に南方の沂州・海州を平定しました。

しかし、同年7月、僕散安貞率いる金軍主力と徐汝賢率いる叛乱軍は昌邑城の東で激突し、叛乱軍は大敗を喫します。さらに、棘七率いる軍も辛河で金軍に大敗し、萊州に逃れました。寧海州刺史の史潑立は寧海州で金軍を防ごうとしましたが敗れ、籠城を余儀なくされます。

萊州の守りが堅いと見た僕散安貞は、曹全・張徳・田貴・宋福らを偽って徐汝賢に投降させ、内応させることに成功します。7月24日夜、金軍は総攻撃を開始し、萊州は陥落しました。徐汝賢は乱戦の中で殺害され、楊安児は単身で逃亡しましたが、耿格・史潑立らは金軍に投降しました。

楊安児勢力の瓦解が決定的となったと見た金朝は、同年11月に楊安児とその配下を除いて山東地方に恩赦を出しました。形勢不利と判断した楊安児は、船に乗って岠嵎山（現在の海陽市の東）へ逃れましたが、曲成らの襲撃を受け殺害されました。

このように、楊安児の勢力は結局萊州の敗戦が決定打となって多くの構成員が金朝に降り、楊安児自身も殺害されるという結末を迎えました。しかし、楊安児の妹である四娘子は残党を率いて磨旗山を拠点とし、後に李全の勢力と合流することになります。

参考文献

大島立子「金末紅襖軍について」『明代史研究』創刊号、1974年
池内功「李全論：南宋・金・モンゴル交戦期における一民衆叛乱指導者の軌跡」『社会文化史学』14号、1977年
* 林章「金末の山東の民乱について」『史学論叢』11、1980年

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