野狐嶺の戦い

野狐嶺の戦い：モンゴル帝国と金朝の激突と、金朝の運命を決定づけた戦い

1211年、現在の河北省張家口市万全区付近の野狐嶺で、モンゴル帝国と金朝の間で野狐嶺の戦いが勃発しました。この戦いは、モンゴル帝国による金朝征服において決定的な意義を持つ、一大激戦でした。金朝軍の主力部隊は壊滅的な打撃を受け、その後の金朝はモンゴル軍の侵攻の前に次々と敗北を喫することになります。この戦いは、モンゴル帝国と金朝を巡る戦争の趨勢を決定づけたと言えるでしょう。

戦いの背景

1206年、チンギス・カンはモンゴル高原を統一し、モンゴル帝国を建国しました。チンギス・カンは積極的な対外進出政策を推進し、西夏国への遠征や天山ウイグル王国の服属を経て勢力を拡大していきます。そして、東アジア最大の大国であった金朝へと、その矛先を向けました。

形式上は金朝の朝貢国であったモンゴル帝国は、1210年に金朝と断交し、1211年には「大モンゴル国」を国号として正式に金朝への侵攻を開始します。モンゴル軍はモンゴル本土にわずか2000騎を残すのみで出陣するなど、国力を挙げての侵攻であったことがわかります。

一方、金朝は世宗・章宗の治世を経て国力的に全盛期を迎えつつありましたが、章宗の治世中には内モンゴル草原における契丹人の反乱や天災が相次ぐなど、統治体制の不安定化も見え始めていました。さらに、1206年の南宋による北伐は、モンゴル帝国への対応に金朝が注力することを妨げることになり、金朝はモンゴル軍の南下をただ待つという状況に追い込まれていきました。

このように、入念な準備と挙国一致体制で金朝侵攻に臨んだモンゴル帝国と、内憂外患を抱え、北方対策に集中できない金朝という構図の中で、両国の戦争は始まりました。そして、内モンゴル草原とそこに住む契丹人の制圧が最初の焦点となり、野狐嶺の戦いはその中で最大の激戦となりました。

戦いの経緯

1211年初頭、モンゴル軍はモンゴル高原を出発し、ゴビ砂漠を越えて陰山山脈方面へと進出しました。この地域は金朝に服属するオングト部の領域でしたが、オングト部当主は既にチンギス・カンに臣従していたため、モンゴル軍はここで休息を取ります。その後、モンゴル軍はシリンゴル草原へと進み、契丹人の制圧に乗り出しました。

金朝はモンゴル軍の大侵攻をいち早く察知し、北方への防衛体制を強化しました。宣徳行省と西京行枢密院という二つの機関を新設し、それぞれモンゴル軍を迎撃する軍団を編成しました。宣徳行省軍は中都への進軍を阻止することを、西京行枢密院軍は山西方面への進攻を阻止することを目的としていました。しかし、モンゴル軍の予想外の速い進撃の前に、金朝軍は次々と拠点を失い、金朝国営牧場がある昌州、桓州、撫州一帯を陥落させられました。モンゴル軍はここで大量の馬を奪取し、多くの契丹人を配下に加えました。

この敗戦により、金軍は重要な戦力である馬と契丹人騎兵を失い、野戦において非常に不利な立場に立たされました。一方、戦利品を得たモンゴル軍は撫州を拠点として兵を休め、次の作戦に備えました。

金軍は、宣徳行省軍を野狐嶺に布陣させ、モンゴル軍の南下を阻止しようとしました。モンゴル軍と金軍は野狐嶺で激突しますが、戦意を失っていた金軍は惨敗を喫し、澮河堡まで追撃を受けました。澮河堡で金軍は立て直しを図り、モンゴル軍と再び激戦を交えますが、最終的にはチンギス・カン率いる精鋭部隊の突撃の前に壊滅的な敗北を喫しました。

野狐嶺の戦い後の戦況

野狐嶺の戦い以降の戦況は、史料によって食い違う部分が多くあります。野狐嶺の戦いで敗北した金朝は、宣徳行省を廃止し、全土から緊急徴兵を行いました。徒単鎰が尚書左丞相に抜擢され、金軍全体の指揮権を掌握しました。金軍はモンゴル軍への反撃を試みますが、一進一退の攻防が続きました。モンゴル軍は徳興まで進出しますが、金軍の抵抗によって撃退され、その後も一進一退の攻防が続きました。

1213年、金朝は縉山行省を新設しましたが、既に徳興・宣徳の放棄を前提としたものでした。モンゴル軍が再南下すると金朝は連敗し、華北地方を蹂躙されました。中都が陥落し、金朝は事実上黄河以北の統治権を失うことになります。

野狐嶺の戦いの評価

野狐嶺の戦いは、モンゴル帝国による第一次金朝侵攻における最大の激戦であり、戦争の勝敗を決定づける重要な戦いでした。この戦いの結果、国力的に優位にあったはずの金朝がモンゴル軍に一方的に敗れ、その後の華北制圧へと繋がっていきました。金朝の運命はこの戦いによって決定づけられたと言っても過言ではありません。

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