楊弓

楊弓：遊戯から遊郭へ至る歴史

楊弓は、柳の枝で作られた小型の弓を用いた遊戯、およびその遊戯自体を指します。弓の長さは約85cm、矢の長さは約23～28cmとされています。中国の唐代に起源を持ち、日本へ伝来。室町時代には公家社会で「楊弓遊戯」として楽しまれていました。

楊弓場の興隆と矢場女

江戸時代に入ると、神社や繁華街などに楊弓場、あるいは矢場と呼ばれる遊戯場が設置されるようになりました。これらの楊弓場には、矢拾女、または矢場女と呼ばれる女性たちが働いていました。当初は矢拾いや客への応対が主な仕事でしたが、次第に売春も提供するようになり、楊弓場は遊郭としての側面を持つようになりました。

的を射抜くと景品がもらえるシステムでしたが、時代が下るにつれて景品の価値は高まり、高額な賭博が行われるようになりました。そのため、天保の改革においては、売春と賭博の温床として取り締まりの対象となりました。

幕末から明治初期にかけて楊弓場は最盛期を迎え、特に東京の浅草奥山（浅草寺の西側裏手）には多くの楊弓場、通称「矢場」が集中しました。これらの楊弓場は、美人と評判の矢場女を雇い、多くの男性客を集めました。

矢場女の仕事は矢を拾うことでしたが、射撃方法を教える際に身体を密着させたり、矢を拾う際に足を魅せたりするなど、客を惹きつける工夫が凝らされていました。中には、わざと矢場女の尻に矢を当てる客もいたそうで、それを巧みにかわす矢場女の姿も客を楽しませる要素の一つだったようです。

楊弓場の裏では売春も行われており、客は矢場女の気を引くために繰り返し楊弓場に通い、破産する者も少なくありませんでした。しかし、明治中期以降は安価な酒場の人気に押され、急速に衰退。関東大震災の影響もあり、昭和初期には東京から楊弓場・矢場は姿を消しました。

1877年には、東京の楊弓場の繁盛と風紀悪化への懸念から、東京警視庁が「楊弓店取締規則」を制定するに至っています。

楊弓場を描いた作品

楊弓場や矢場女は、多くの作品に題材として取り上げられています。例えば、映画『十字路』（1928年）では主人公の弟が矢場の女に貢いでいる様子が描かれています。また、『丹下左膳余話 百萬両の壺』では主人公が矢場の用心棒として登場し、『竹光侍』では主人公が矢場に出入りし、愛人が矢取女であるという設定が見られます。森鷗外の小説『ヰタ・セクスアリス』では、11歳の主人公が浅草奥山の楊弓店へ連れて行かれる場面が登場します。これらの作品は、当時の楊弓場の様子や矢場女の生活、社会状況を垣間見せてくれます。

まとめ

楊弓は、遊戯として始まり、江戸時代には遊郭としての側面を持つようになった複雑な歴史を持つ娯楽です。楊弓場と矢場女は、当時の社会情勢や人々の生活を反映する興味深い存在であり、数々の作品にも取り上げられ、現在までその名を知られています。楊弓場という空間は、娯楽と風俗が交錯する、独特の文化が花開いた場所であったと言えるでしょう。

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