楚留香

楚留香 ― 香水の匂いを残して消える侠盗

『楚留香』は、台湾の作家古龍による人気武侠小説シリーズとその主人公の名前です。楚留香は、類まれな武芸と軽功、そして抜群の知略を駆使して数々の事件を解決する、魅力的な侠盗です。盗みに入った場所には必ず香水の香りを残すことから、「香帥」の異名で知られています。

古龍自身、楚留香のキャラクター像を作る際に、ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドをイメージしたと語っており、その洗練された魅力と大胆な行動は、まさに現代的なヒーロー像として多くの読者を魅了しています。日本語訳を担当した土屋文子氏や田中芳樹氏からは「中国のアルセーヌ・ルパン」と評され、田中芳樹氏は、金庸の『笑傲江湖』の主人公、令狐冲と比較して、名前の響きにおいても楚留香の方が優れていると絶賛しています。

楚留香とその仲間たち

楚留香は、優れた軽功の使い手で、作中ではその軽功は天下一と評されています。しかし、驚くべきことに先天的に嗅覚に問題があり、鼻で呼吸することができません。このハンデを克服するため、全身の皮膚呼吸を習得し、独自の呼吸法を会得。そのため水中での活動も可能です。武術の腕前も一流ですが、最強とは限らず、石観音や水母陰姫といった、彼を上回る武芸の達人が登場することもあります。しかし、楚留香は知略と機転を活かして、幾多の困難を乗り越えていきます。

楚留香を取り巻く仲間たちも、個性豊かです。

蘇蓉蓉: 変装の達人で、楚留香を支える女友達の一人。
李紅袖: 広範な知識を持つ、知的な女友達。
宋甜児: 料理の腕前は抜群の、楚留香の女友達。
胡鉄花: 楚留香の幼馴染で、豪快な性格の大男。「花胡蝶」の異名を持ち、酒を愛する人物です。
中原一点紅: 元殺し屋で、現在は楚留香の友人。剣術の達人です。

楚留香シリーズには、他にも多くの魅力的なキャラクターが登場します。例えば、東瀛（日本）から来た忍者、天楓十四郎はシリーズを通して重要な役割を果たし、石観音、水母陰姫といった強力な敵も、楚留香の冒険を彩ります。これらのキャラクターたちは、それぞれ独自の背景と能力を持ち、楚留香との複雑な関係性を築いています。

作品の世界観と時代設定

古龍作品らしく、楚留香シリーズには明確な時代設定がありません。倭寇が登場する作品もありますが、特定の王朝を舞台としているわけではありません。また、天楓十四郎など、東瀛（日本）を起源とするキャラクターが登場しますが、作中での「忍術」の描写は、日本人の一般的なイメージとは異なる解釈がなされている点も興味深いところです。

日本における紹介

2009年時点で、小学館より『楚留香　蝙蝠伝奇』上中下巻が出版されていますが、現在は絶版となっています。この作品集はシリーズ全体を網羅したものではなく、「借屍還魂」と「蝙蝠伝奇」という、時系列で言えば中盤に位置する物語が収録されています。

その他にも、数多くの映画やテレビドラマが製作され、中華圏で広く親しまれています。日本での公開は限られていますが、DVDソフトとして一部作品が発売されています。2013年には宝塚歌劇団においても舞台化されています。

主要作品一覧

血海飄香（シリーズ1作目）
大沙漠
画眉鳥（シリーズ3作目）
借屍還魂（日本語訳あり）
蝙蝠伝奇（日本語訳あり）
桃花伝奇
新月伝奇
* 午夜蘭花

これらの作品は、シリーズ全体として『楚留香伝奇』や『楚留香新伝』など、いくつかのまとまったタイトルで呼ばれることもあります。

映画・テレビドラマ

『楚留香』シリーズは、繰り返し映画化、ドラマ化されており、数多くのバージョンが存在します。有名俳優が楚留香を演じ、その度に新たな魅力が加えられています。しかし、これらの作品は日本での公開が限られているため、日本のファンにとっては入手が難しい作品も多いのが現状です。

楚留香シリーズは、その魅力的な主人公と個性的な登場人物、そして奥深いストーリー展開によって、長く愛され続けている武侠小説です。その世界観に触れることで、中国武侠小説の奥深さと魅力を堪能できるでしょう。

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