楢ノ木大学士の野宿

楢ノ木大学士の野宿

概要

「楢ノ木大学士の野宿」は、宮沢賢治の作品であり、彼の死後の1934年に発表されました。この童話は、宝石学に精通した楢ノ木大学士が蛋白石の採取を目指し、自然の中での冒険を繰り広げる様子を描いています。

あらすじ

物語は、大学士が「貝の火兄弟商会」から上等な蛋白石の納品依頼を受けるところから始まります。大学士はその依頼を受けて、上野駅から葛丸川の河原へと向かいます。彼は川原で砂利を探しますが、残念ながら手応えは得られません。日が暮れると、仕方なく野宿を決め、星空の下で岩頸についての講義を行います。しかし、彼はその夜に岩頸の兄弟の夢を見ることになります。

翌朝、大学士は熊出街道方面へ移動し、淡白石を求めて再び探し続けますが、収穫はなし。二日目の夜、彼は石切場の穴に留まることになり、その明け方には奇妙な声が耳に入るのです。その声は鉱物たちの会話でした。大学士はその会話に夢中になり、つい夜が明けてしまいます。

三日目も運が悪く、大学士は自分が安易に依頼を引き受けてしまったことを後悔します。食事中にうとうとした彼は、目を覚ますと化石探しの冒険が待っていました。彼は白亜紀の地層で、恐竜の化石を探すことになります。巨大な足跡をたどっていくと、突如として生きた雷竜に出くわし、恐怖に駆られて逃げようとしますが、誤って雷竜の巣に踏み込んでしまいます。大学士は高台に逃げるも、その雷竜に見つかり、彼はついに食べられてしまうという夢から覚め、これは全て夢であったことに気づくのです。

自宅に戻った大学士のもとには、再び「貝の火兄弟商会」の支配人が訪れます。大学士は、「素晴らしい蛋白石をたくさん見つけたが、運びきれないので良いものだけ選んだ」と言いながら、実際には下等な蛋白石を30個ほど支配人に手渡します。怒る支配人に対して大学士は、「そんなの関係ない。僕は大変な目にあったのだ。旅費を返せばそれで良い」と言い、金の入った封筒を渡して追い返します。支配人が帰った後、大学士は天井に視線を向け、微笑みを浮かべます。

解説

宮沢賢治は宝石や鉱物、化石に関する深い知識を有しており、特にオニグルミの化石については日本における第一発見者とされています。また、物語に登場する「雷竜」はアパトサウルスの和名で、この時代には日本での恐竜の存在が知られていなかったため、賢治の先見の明が感じられます。実際に1978年に岩手県で発見されたアパトサウルスに近い恐竜の化石は、賢治の想像力が現実に繋がっていることを示しています。

物語の中で登場する鉱物たちの名前は、実際の鉱物の名称とリンクしています。その関係を見てみると、角閃石や黒雲母、磁鉄鉱などの名称が実際の学術名に基づいています。これらの事実は、賢治の背景にある学 問の深さも物語に反映されています。

まとめ

「楢ノ木大学士の野宿」は、賢治の豊かな想像力と自然への愛情が詰まった作品であり、己の専門知識を生かしながらも、学者としての使命感や苦悩が描かれています。物語の幻想感と現実感が交錯する中で、人間の壮大な夢と自然との関わりを考えさせられます。

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